解説記事

内縁の夫婦や同性パートナーが遺言書を作成しておくべき理由

近年、事実上は夫婦として生活していても、籍を入れずにいるパートナー同士が増えています。いわゆる事実婚や内縁関係とも言われるかたちです。法律上の夫婦と同じように扱われる場面もありますが、相続においてはまったく異なる扱いとなりますので、問題が生じる可能性があります。本記事では、事実婚夫婦が遺言書を作成しておいたほうがよい理由と、その具体的な作成方法について、行政書士の視点から解説します。

 

なぜ事実婚には遺言書が必要なのか?


事実婚といっても、法律上の夫婦と同等の扱いとなる場面もあります。たとえば、社会保険(健康保険や厚生年金など)の被扶養者になれることや、住宅ローンを借りるときの収入合算ができる金融機関が増えていることなどがあげられます。しかし、相続という場面においては、事実婚の夫婦同士は、法律上の夫婦と違って、相続人になれないという大きな問題があります。

パートナーは法定相続人の範囲外

日本の民法では、法定相続人は以下のように定められています
1.配偶者
2.子(養子縁組や認知を受けた子も含む)
3.直系尊属(親や祖父母)
4.兄弟姉妹

このように、事実婚夫婦のパートナーは、法律上では配偶者ではないため、法定相続人に含まれません。そのため、パートナーに財産を残すためには、パートナーに遺贈する意思を遺言書で示さなければならないのです。

パートナーに財産を遺贈する意思を明確にしておくため

通常、配偶者や子がいない場合、財産は故人の親族に渡ることになります。しかし、事実婚のパートナーがいる場合、「誰よりも親しいパートナーに財産を残したい」と思うのが自然です。確実にパートナーに財産を残したいのであれば、遺言書を作成しておくことで、遺贈する意思を明確にしておくことができます。

トラブルや不利益を防ぐことができる

二人の関係を生前から親族がよくわかっていて、財産は当然、パートナーが受け取るもの、と理解してくれているかもしれません。でも、亡くなったあと、親族が「相続権がないパートナー」を追い出そうとしたり、財産を独占するようなトラブルが発生する可能性がないとは言い切れません。そういったトラブルを未然に防ぐことができるのが遺言書による遺贈です。

パートナーの生活を守れる

遺言書がなかった場合、パートナーが共有財産として考えていたものでも、法的には認められずに財産を失ってしまうおそれもあります。たとえば、自宅など共有していた不動産をパートナーが引き続き住むことができなくなるかもしれません。遺言書に具体的に明記することで、パートナーの生活を守ることができます。

親族への配慮も

遺言書では、パートナーに財産を残しつつ、親族にも一部を分配する意思を示すこともできます。「全財産をパートナーに遺贈する」といった遺言書を書くことはもちろん可能ですが、遺留分といって、直系尊属(親や祖父母)と子には一定の割合の財産を請求する権利があります。この点に配慮した遺言書を書いておけば、のちに親族間のトラブルになることを防ぐことができるのではないでしょうか。なお、家庭裁判所の許可を得て、親族はあらかじめ遺留分を放棄することはできますが、相続開始前に相続を放棄することはできません。

 

遺言書の種類と作成方法


遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれ手続きの方法や費用面などが異なります。確実にパートナーに財産を残せるかどうかを考えて選ぶことが大事です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が自分で全文、日付、氏名を自書し、押印することで成立します。自分ひとりでできて、費用もかかりませんが、形式の不備や内容の曖昧さが原因で無効になるリスクがあります。また、遺言書の開封は家庭裁判所でしなければならず、中身の確認についても、家庭裁判所による「検認」を受ける必要があります。

メリット
・費用をかけずに比較的簡単に作成することができる
デメリット
・本文は自筆で書く必要があり、パソコンでの作成は不可。
・遺言書を保管する際に紛失や改ざんのリスクがある。

※遺言書保管制度の利用もできます
2020年から開始された「自筆証書遺言書保管制度」を利用することもできるようになりました。自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができる制度です。これにより、紛失や改ざんのリスクを防げます。また、家庭裁判所による「検認」の手続きを受ける必要もありません。ただし、遺言書そのものの形式上の不備などにより無効となることがないよう注意する必要があることに変わりはありません。


公正証書遺言

公証役場で公証人が遺言書を作成します。公証人というのは、法務大臣から任命された法律の専門家で、公正証書の作成等をおこなう国家機関です。遺言者が遺言の内容を口頭で公証人に伝え、それを公証人が公正証書としてまとめます。作成した公正証書の原本は公証役場で保管されます。信頼性が高く、形式不備で無効になるリスクがありません。家庭裁判所による「検認」を受ける必要もありません。

作成の流れ
1.遺言の内容を整理する。
2.必要書類(本人確認書類、不動産登記簿謄本、預貯金の明細など)を準備。
3.公証役場で公証人に遺言の内容を伝え、遺言書を作成してもらう。

メリット
・法的効力が確実で、公証役場に安全に保管される。
・後から無効とされるリスクが低い。
デメリット
・財産の価額に応じた費用が発生する。→日本公証人連合会ホームページ(手数料Q3)


秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を誰にも明かしたくない場合に利用します。封をしたあとに、公証役場において公証人と証人2名の署名・押印を受けることで作成できます。公証役場では保管してくれませんので、紛失には気をつけなければなりません。また、遺言書の中身そのものは、自分で作成しますので、形式上の有効性などについては自身で注意する必要があるでしょう。家庭裁判所による「検認」を受ける必要もあります。

メリット
・遺言の内容を誰にも知られずに作成できる
デメリット
・公証役場では保管しないため、紛失のリスクがある
・費用が発生する(公証人への手数料11,000円)。

  

遺言書作成時の注意点


遺言書を作成するときに注意すべき点がいくつかありますので、参考にしていただけたらと思います。

お互いに対して書いたほうがいい

夫婦のうち、どちらが先に亡くなるかはわかりません。法律上の夫婦の場合は、残された配偶者が自動的に相続人になりますが、事実婚の場合はそれができません。二人の共同で一つの遺言書を作成することは法律上できませんので、自分の財産をパートナーに遺贈する旨の遺言書を互いに一つずつ作成しておく必要があります。

撤回や見直しはいつでもできます

家族構成や財産状況が変わった場合は、遺言書の内容を見直す必要があります。特に、財産の状況が変わった場合や新しいパートナーシップを築いた場合は、速やかに対応しましょう。遺言の撤回もいつでもできます。

専門家のサポートを受けたほうがいい

遺言書は法律に基づいた形式でなければ、せっかく作成しておいても無効になってしまうことがあります。検討の段階から行政書士や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながらつくることをお勧めします。

  

まとめ


事実婚夫婦が遺言書を作成しておくことは、双方の安心と未来を守るために非常に重要です。遺言書があることで、パートナーに財産を確実に引き継ぎ、相続に関する親族間のトラブルを未然に防ぐこともできます。
いくつかある遺言書の形式のなかでも、より確実性と安全性の高い公正証書遺言で遺言書を作成することを強くお勧めします。

公正証書遺言は少しハードルが高いように感じるかもしれませんが、行政書士に相談すれば、遺言書の内容をどんなものにしたいかという、はじめの一歩から一緒に考えてくれます。公証役場の手配や、必要書類を代理で取得することなど、全面的なサポートを受けることができます。

 

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