相談者:ホテルの採用担当者
最近は外国からのお客様がとても増えており、対応できるスタッフとして外国人の雇用を考えています。フロント業務だけでなく、人手の足りない宴会場での接客業務にも従事させたいのですが、なにか問題はありますか?また、注意すべきことはありますか?
回答者:行政書士
宴会場で外国人材に働いてもらうことは問題ありません。しかし、その方の在留資格によっては、料理を運んだりお皿を洗うといった単純作業をすることができない場合がありますので、注意が必要です。ホテルで働ける在留資格について、くわしくご説明しますね。
インバウンド需要が右肩上がりに成長を続ける中、ホテルの宴会場(バンケット)は、国際会議(MICE)や結婚式、企業のレセプションなど、多言語対応が最も求められる現場の一つとなっています。「海外のお客様が増えたから、宴会場にも外国人の正社員を配置したい」と考えるのは、経営戦略として非常に自然な流れです。
しかし、行政書士として多くの相談を受ける中で、最も「不許可リスク」が高く、慎重な議論が必要になるのが、この「宴会場における接客業務」です。
結論から申し上げますと、「やり方(ビザの選択と職務の定義)を間違えると、入管法違反や不法就労助長罪に問われる大きな問題がある」というのが実情です。なぜ宴会場業務がこれほどまでに難しいのか、そしてどのように解決すべきなのか、実務レベルで徹底的に解説します。
目次
1. なぜ「宴会場の接客」は入管に厳しく見られるのか
日本の就労ビザ(特に「技術・人文知識・国際業務」、以下「技・人・国」)の根幹には、「高度な専門知識を必要としない単純労働は認めない」という大原則があります。
入管(出入国在留管理局)の審査官は、宴会場での業務を以下のように分類する傾向があります。
単純労働とみなされるもの
料理の配膳(サービング)、飲み物の提供、テーブルのセッティング、使用済みの食器の片付け、会場の机や椅子の設営。
専門的業務とみなされるもの
海外主催者との詳細な打ち合わせ(バンケット・プランニング)、多言語での司会進行、宗教的・文化的背景を考慮したメニューの通訳・説明、VIPに対する国際儀礼(プロトコル)に基づいた接客。
審査官が懸念するのは、「正社員(技・人・国)として採用しておきながら、実態はアルバイトでもできる配膳業務ばかりをさせているのではないか?」という点です。宴会場は「配膳」が主務になりやすい場所であるため、最初から疑いの目を持たれる「鬼門」なのです。
2. 在留資格「技・人・国」での申請における3つの壁
多くのホテルが最初に検討するのが「技・人・国」ですが、宴会場メインの配置でこのビザを狙う場合、以下の壁を突破しなければなりません。
① 「業務の高度性」をどう証明するか
単に「外国人客に英語で料理を説明する」というだけでは、今の入管審査では「専門性がある」とは認められにくいのが現実です。 「大学で学んだ経済学や異文化コミュニケーションの知識が、ビールをつぐ業務にどう活かされるのか?」という問いに対し、合理的な回答を用意しなければなりません。
② 「主たる業務」と「付随的業務」のバランス
入管法上、専門的な業務の合間に少し配膳を手伝う程度(付随的業務)であれば許容されます。しかし、勤務時間の8割が配膳であれば、それは「単純労働が主」とみなされます。宴会場のシフト表を提出させられた際、1日中「現場サービス」と記載されていれば、更新時に「資格外活動」として不許可、最悪の場合は強制送還の対象にもなり得ます。
③ 専門学校生の「学歴との不一致」
特に日本の観光系専門学校を卒業した学生を採用する場合、審査はさらに厳格です。「ホテル科」でフロント実務を学んだ学生を「宴会場」に配属する場合、「学校で学んだフロントの専門知識を、宴会場のどこで使うのか?」という点に明確な答えが必要です。
3. 実務で失敗しないための「3つの適正ルート」選択
宴会場で外国人を適法に雇用するためには、無理に一つのビザにこだわらず、業務実態に合わせた「ルート選び」が重要です。
ルートA:特定技能(宿泊)を活用する【実務上のベストアンサー】
2019年に新設された「特定技能」は、まさに現場の人手不足を解消するための資格です。
認められる業務
フロントだけでなく、「宴会場での配膳、準備、片付け」が堂々と認められています。
メリット
「これは単純労働か?」という議論自体が不要になります。現場の戦力としてマルチに活躍してもらいたいなら、このルートが最も安全です。
課題
本人が「宿泊業技能測定試験」に合格している必要があります。
ルートB:特定活動46号を活用する(日本の大学卒限定)
日本の4年制大学を卒業し、日本語能力試験N1(またはBJT480点以上)を持つエリート層向けの資格です。
認められる業務
日本語を用いた円滑な意思疎通を主とする業務であれば、「付随的な業務」として配膳や現場実務を併せて行うことが公式に認められています。
メリット
「技・人・国」ではNGとされる「接客メインの働き方」が合法になります。
課題
採用対象が「日本の大学・大学院卒」に限定されるため、採用のハードルが高いところです。
ルートC:「技・人・国」を「国際コーディネーター」として構成する
どうしても「技・人・国」で申請せざるを得ない場合は、職務の再定義が必要です。
戦略
肩書きを「接客スタッフ」ではなく、「バンケット・コーディネーター」や「インバウンド企画担当」とします。
業務設計
メイン業務を「海外顧客からの受注、プランニング、見積もり作成、当日までの連絡調整、当日の言語サポート」に置き、サービス(配膳)はその一環であると説明します。
4. 採用担当者が現場マネージャーと共有すべき「リスク管理」
ビザが取れた後も、現場の運用次第で法違反が発生します。人事担当者は現場に以下のルールを徹底させる必要があります。
「技・人・国」のスタッフに、設営(机運び)ばかりさせない
体力を要する設営作業は、最も「単純労働」と判断されやすい項目です。これらはアルバイトや派遣スタッフに任せ、正社員はあくまで「顧客対応」や「管理」に回す体制が必要です。
研修期間の設定を明確にする
「最初は現場を知るために配膳をさせる」という研修は認められますが、その期間(例:入社後3ヶ月間)と目的を「研修計画書」として入管に提出しておきましょう。計画なしに1年、2年と現場にいさせると不法就労を疑われます。
5. 雇用理由書で「単純労働」の疑いを晴らす3つの視点
雇用理由書を作成する際、宴会場業務の専門性を証明するために用いる視点は以下の通りです。
① 「多言語対応の不可欠性」の立証
その宴会場で行われる行事の何割が外国人関係か、過去の実績を数字で示します。「週に5日は海外企業のレセプションがあり、そこでのアテンドは彼(彼女)なしでは成立しない」という必然性を示します。
② 「高度なマナーと文化理解」の強調
単なる給仕ではなく、ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール対応など、宗教的・文化的な知識に基づいたコンサルティング的接客が必要であることを具体例を挙げて記述します。
③ 「マネジメント・リーダーシップ」への期待
将来的に外国人スタッフや派遣スタッフを束ねる「キャプテン(リーダー)」としての役割を期待していることを、キャリアパスとともに示します。
6. ホテルが取るべき選択肢のまとめ
ホテルの宴会場で外国人を雇用することは、法的リスクを正しく理解し、適切な在留資格を選択すれば、何ら問題はありません。むしろ、グローバル化が進むホテル経営において強力な武器になります。
しかし、「とりあえずビザ(技・人・国)を申請して、あとは現場で配膳をやらせておけばいい」という考えは、今の入管実務では通用しません。
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現場実務をしっかりこなしてほしいなら、 →特定技能
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日本の大学を出た優秀な層をリーダーに据えたいなら、 →特定活動46号
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海外との交渉やプランニングを主軸にするなら、 →技・人・国
この「交通整理」を採用の初期段階で行うことが、ホテルとしてのコンプライアンスを守り、優秀な人材を定着させる唯一の道です。
7. おわりに
「この業務内容なら、どのビザが一番通りやすいのか?」「今の雇用契約書で不法就労にならないか?」と迷われることは、人事担当者として当然の悩みだと思います。
もし、上記のように迷われるケースがありましたら、ビザの手続きを専門とする当事務所に一度ご相談ください。
御社の宴会場の稼働状況や、候補者の学歴を詳細にヒアリングしたうえで、最も許可率が高く、かつ入社後のリスクが低い「最適解」をご提案させていただきます。
外国人スタッフが宴会場のリーダーとして輝き、世界中のお客様に最高のホスピタリティを提供できるよう、ビザの側面から全力でバックアップいたします。まずは一度、御社の現状をお聞かせください。
★技術・人文知識・国際業務ビザの取得については、こちらの記事もあわせてご参照ください。
【採用担当】外国人の技術・人文知識・国際業務ビザ取得完全マニュアル



