海外拠点の人材を日本へ呼び寄せる「企業内転勤」ビザ

グローバルに事業を展開する企業にとって、海外拠点で活躍する優秀な人材を日本の本社や支店に転勤させることは、技術移転や、経営戦略の共有、あるいは組織全体の連携強化には不可欠なことかと思います。こうした、国外にいる外国人材を、国をまたいで日本へ「転勤」させるためには、「企業内転勤」というビザを取る必要があります。

この在留資格は、一般的な中途採用などで外国人を雇用する場合の「技術・人文知識・国際業務」ビザとは、要件や目的が大きく異なります。適切な知識なくしては、手続きが滞り、貴重な人材の配置計画に遅れが生じる可能性もあります。

この記事では、企業の人事担当者様が「企業内転勤」ビザを正しく理解し、スムーズに手続きを進められるよう、制度の全体像から具体的な申請フロー、注意点までを網羅的に解説していきます。

 

1. 「企業内転勤」の在留資格とは?- グループ内異動に特化した制度

「企業内転勤」とは、外国にある本店、支店、その他の事業所の職員が、日本の本店、支店、その他の事業所に期間を定めて転勤し、特定の業務に従事するための在留資格です。

最大の特徴:グループ内の人材異動であること

この在留資格の根幹は、あくまで同一企業グループ内での人材異動であるという点です。外部の労働市場から新たに人材を採用するのではなく、すでに海外拠点で従業員として働いている人材を、日本の関連会社などへ異動させることが目的です。そのため、一般的な採用とは異なる、独自の要件が設定されています。

従事できる業務内容

日本で従事できる業務は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」で定められている活動に限られます。つまり、専門的な知識やスキルを要する、いわゆるホワイトカラー職である必要があります。

・技術 (Engineer):理学、工学、情報工学などの自然科学の分野に属する技術または知識を要する業務。(例:ITエンジニア、開発者、設計者、研究職)

・人文知識 (Specialist in Humanities):法律学、経済学、経営学、社会学などの人文科学の分野に属する知識を要する業務。(例:営業、マーケティング、商品企画、経理、人事、法務)

・国際業務 (International Services):翻訳、通訳、語学指導、海外取引、デザインなど、外国の文化に基盤を有する思考または感受性を必要とする業務。

重要なのは、工場でのライン作業、建設現場での作業、店舗での接客や清掃といった、単純作業と見なされる業務は、この在留資格の対象外であるという点です。

 

2. 許可を得るための3つの必須要件

「企業内転勤」の許可を得るためには、「① 本人の要件」「② 会社間の関係の要件」「③ 転勤自体の要件」の3つの柱となる要件を、すべて客観的な書類で証明する必要があります。

(1)本人の要件

 1年以上の継続勤務

申請に係る転勤の直前に、海外の本店、支店、その他の関連事業所において、継続して1年以上勤務していることが絶対条件です。この「1年以上」の期間中に、今回日本で行う予定の業務(「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務)に従事している必要があります。
たとえば、海外拠点で経理担当として1年以上勤務していた人材が、日本の本社で経理業務に従事する、といったケースはもちろん該当しますが、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務の範囲内であればよく、海外では経理を担当していた人材が、日本では通訳を担当するといったことは認められます。
途中で長期の休職期間がある場合や、入社から1年未満の場合は、要件を満たしません。

日本人と同等額以上の報酬

転勤後の給与が、もし同じ業務に従事する日本人がいる場合に、その日本人と同等額以上でなければなりません。これは、外国人を安価な労働力として不当に雇用することを防ぐための規定です。社内の給与規程などに基づき、報酬の妥当性を説明する必要があります。

(2)会社間の関係の要件

転勤元である海外の事業所と、転勤先である日本の事業所との間に、明確な資本関係があることが求められます。出資関係が書類で証明できなければなりません。要件を満たす代表的なケースは、以下のとおりです。

・本店・支店間の異動:海外本社 ⇔ 日本支社

・親会社・子会社間の異動:海外親会社 → 日本の子会社、日本の親会社 → 海外の子会社

・子会社・孫会社間の異動:海外子会社 → 日本の孫会社、日本の子会社 → 海外の孫会社

・関連会社への出向:議決権の20%以上50%以下を所有する「関連会社」への異動も対象となります。

これらの関係は、株主名簿、有価証券報告書、役員兼任状況、会社間の出資関係図など、客観的な資料によって証明する必要があります。単に取引関係がある、技術提携しているといっただけでは認められません。

(3)転勤自体の要件

期間を定めた転勤であること

この在留資格は、無期限の勤務を前提としたものではなく、あくまで一定期間の転勤であることが求められます。雇用契約書や辞令、出向契約書などで、転勤期間(例:「〇年〇月〇日から3年間」など)が明記されている必要があります。

日本側の事業所が安定・継続していること

転勤先となる日本の事業所が、適正に運営され、事業としての安定性・継続性があることが審査されます。直近の決算が債務超過であるなど、経営状態が著しく悪い場合は、許可が難しくなる可能性があります。
もし転勤先が日本に新しく設立された事業所である場合は、事務所の賃貸借契約書や詳細な事業計画書、給与支払事務所等の開設届出書などを提出し、事業の実体と将来性を丁寧に証明する必要があります。

 

3. 「技術・人文知識・国際業務」ビザとの戦略的な使い分け

ここで、ホワイトカラー人材の一般的な就労ビザである「技術・人文知識・国際業務」との違いを確認しておきましょう。どちらの在留資格を選択すべきかを戦略的に判断することができるかと思います。

企業内転勤 技術・人文知識・国際業務
学歴要件 原則、問われない 原則、大卒以上
(関連分野の専攻)
職歴要件 転勤元で継続1年以上(必須) 必須ではない
(学歴要件を満たさない場合は10年以上必要)
対象者 グループ内の既存社員 新規採用者(グループの内外を問わず)

この表からわかる最大のポイントは、「企業内転勤」には学歴要件がないことです。

これは、大学は卒業していないけれども、海外拠点で長年活躍し、豊富な実務経験とスキルを持つ優秀な人材を日本に呼び寄せたい場合などに、とても有効な選択肢となります。「技術・人文知識・国際業務」では学歴が壁となるような人材でも、「企業内転勤」であれば招聘できる可能性があるのです。

 

4. 【ケース別】申請手続きのフロー

ケース1:海外から転勤させる場合(在留資格認定証明書交付申請)

申請書類の準備(約2週間~1ヶ月)

後述する「必要書類一覧」を参考に、日本の受入企業が中心となって書類を準備します。特に海外の本人から取り寄せる書類(在職証明書やパスポートのコピーなど)は、早めに依頼することが肝心です。

管轄の入管へ申請

転勤先となる日本の事業所の所在地を管轄する出入国在留管理局に、「在留資格認定証明書交付申請」を行います。申請は、受入企業の職員が代理人として行うのが一般的です。

入管での審査(約1~3ヶ月)

審査期間は案件や申請時期により変動しますが、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。審査の過程で、追加の資料提出を求められることもあります。

在留資格認定証明書(CoE)の交付・送付

許可されるとCoEが交付されます(紙または電子)。これを、国際郵便やメールで海外の本人へ送付します。

現地の日本大使館でビザ(査証)申請

本人が、受け取ったCoEとパスポートなどを持って、自国の日本大使館・領事館でビザを申請します。

来日・就労開始

ビザが発給されたら、CoEの交付日から3ヶ月以内に来日する必要があります。主要な空港では、入国審査の際に在留カードが交付されます。その後、住民登録などの手続きを経て、正式に就労を開始できます。

ケース2:日本に他の在留資格でいる人を切り替える場合(在留資格変更許可申請)

例えば、海外拠点の社員が研修目的で「短期滞在」ビザで来日中に、正式に転勤が決まった場合などです。この場合、「在留資格変更許可申請」を行います。手続きの流れはCoE申請と似ており、日本国内で完結します。

 

5. 必要書類一覧

提出書類は、受入企業の規模によって4つのカテゴリーに分類され、それによって大幅に簡素化されます。

カテゴリー1:日本の証券取引所に上場している企業など

カテゴリー2:前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の源泉徴収税額が1,000万円以上の企業

カテゴリー3:前年分の法定調書合計表が提出された企業(カテゴリー2を除く)

カテゴリー4:上記のいずれにも該当しない企業(新設法人など)

【全カテゴリー共通で必要な書類】

在留資格認定証明書交付申請書(または変更許可申請書)

写真(縦4cm×横3cm)

返信用封筒

【カテゴリーごとに必要な書類】

主な提出書類

カテゴリー1 ・四季報の写し、または上場を証明する文書の写し

カテゴリー2 ・前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(写し)

カテゴリー3 ・前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(写し)および、以下の書類

・転勤命令書の写し、辞令等の写し
・労働条件通知書等の写し
・役員報酬を定める定款の写し又は役員報酬を決議した株主総会の議事録
・登記事項証明書等
・関連する業務に従事した機関及び内容並びに期間を明示した履歴書
・勤務先等の沿革、役員、組織、事業内容等が詳細に記載された案内書
・直近の年度の決算文書の写し。新規事業の場合は事業計画書

カテゴリー4 ・カテゴリー3の書類に加えて、以下の書類

・外国法人の源泉徴収に対する免除証明書
・給与支払事務所等の開設届出書の写し
・直近3か月分の給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書

 

6. まとめ - 重要ポイント

「企業内転勤」ビザを取得するためには、提出する書類によって、定められた要件を論理的かつ矛盾なく証明することが不可欠になります。おもな大事なポイントは以下の3つです。

・転勤前1年以上の継続勤務していたことを客観的に証明すること。

・海外拠点と日本拠点の「資本関係」を公的書類で明確に示すこと。

・日本での業務が「専門的業務」であり、単純労働ではないことを具体的に説明すること。

これらの要件を満たし、それらを裏付ける適切な書類を準備することはなかなか大変です。特に、単純に本社と支社のような関係でない場合や、新設法人への転勤の場合は用意する書類も増えますから、とくに手続きが複雑になりがちです。

もし手続きに不安がある場合や、担当者様が本来のコア業務に集中するために、煩雑な手続きを外部の専門家に任せたい場合は、私たちのような申請取次行政書士にご相談ください。貴社のグローバルな人材戦略を、法務面からしっかりサポートいたします。

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