英語の先生は「教育」ビザ? それとも「技術・人文知識・国際業務」ビザ?

「日本の学校で英語を教えたい」「教育を通じて国際交流に貢献したい」
このような夢を抱いて、日本の教育分野での就職を目指す外国籍の方は年々増加しています。しかし、その夢を実現するためには「在留資格(ビザ)」という重要なステップをクリアしなければなりません。

特に教育分野で働く場合、主に2つの在留資格が関係してきます。それが「教育」ビザと「技術・人文知識・国際業務」ビザです。

一見、どちらも「教える」ことに関わるビザのように思えますが、その内容は大きく異なります。この違いを正確に理解していないと、「内定は出たのに、ビザが不許可になってしまった」「希望のキャリアチェンジができない」といった事態に陥りかねません。

この記事では、これから日本で教職に就きたいと考えている外国人材の方、そして優秀な外国人材の採用を検討している教育機関の担当者様に向けて、この2つのビザの違いについて解説します。どちらのビザが自分(あるいは自社が採用する人材)に必要なのか、この記事でしっかり確認しましょう。

 

1. 最大の違いは「働く場所」(所属機関の種類)

まず最も重要な結論からお伝えします。
「教育」ビザと「技術・人文知識・国際業務」ビザを分ける最大のポイントは、「どこで働くか」、つまり所属する機関が日本の「学校教育法」で定められた学校に該当するかどうかです。

「教育」ビザが必要な学校

日本の学校教育法第1条に定められている学校(「一条校」と呼ばれることがあります)、および専修学校や各種学校が対象です。おもに、外国語指導助手(ALT:Assistant Language Teacher)や、インターナショナルスクール(学校教育法で認可されている場合)の教員などがこのビザを取得します。

具体例:

公立・私立の小学校、中学校、高等学校

特別支援学校

中等教育学校(中高一貫校)

専修学校、各種学校(要件あり)

「技術・人文知識・国際業務」ビザが必要な学校

上記以外の民間企業や団体が対象です。
英会話スクールの講師や、企業で働く語学トレーナー、カリキュラム開発担当者などは、こちらのビザを取得します。

具体例:

民間の語学学校(英会話スクール)

学習塾、予備校

企業の語学研修部門

教材開発会社

インターナショナルスクール(学校教育法で認可されていない場合)

 

このように、仕事内容が同じ「語学を教える」ことであっても、働く場所が公立中学校なのか、民間の英会話スクールなのかによって、申請すべきビザの種類が異なっています。

 

2. 表で比較! 「教育」と「技術・人文知識・国際業務」

それでは、さらに詳しく2つのビザを表で比較してみましょう。

教育ビザ 技術・人文知識・国際業務ビザ
おもな活動場所 学校教育法で定められた小学校、中学校、高等学校、専修学校など 民間の語学学校(英会話スクール)、一般企業、学習塾など
活動内容 許可された教育機関での教育活動に限定される 専門知識を活かした幅広い業務が可能。 (例:語学指導、翻訳・通訳、国際取引、広報・宣伝、カリキュラム開発など)
学歴・実務経験の要件 ① 大学卒業(学士号取得)が基本
② または、教えようとする科目の教員免許を保有していること
③ または、一定の教育機関で5年以上の実務経験があること(外国語教育以外の場合)
① 大学卒業、または日本の専門学校卒業(専門士)
② 学歴(専攻)と従事する業務内容との間に関連性が強く求められる
③ 関連性がない場合、10年以上(国際業務は3年以上)の実務経験が必要
特徴と注意点 ・公教育に関わる安定した職務が多い
・活動範囲が厳格なため、副業するには資格外活動許可が必須
・転職する場合、転職先も「教育」ビザの対象機関でないと在留資格の変更が必要
・民間企業が対象なので、職種やキャリアパスの選択肢が広い
・「学歴と業務の関連性」が審査の重要ポイント
・同じビザの範囲内での転職(例:A社での翻訳→B社での翻訳)は比較的容易

なお、どちらのビザも、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けられることが必要です。

 

3. それぞれの在留資格の特徴

在留資格「教育」

 どんな人のためのビザ?

主に、日本の公教育の現場で子どもたちに外国語や異文化を教える役割を担う人のためのビザです。最も代表的な職種は、小中学校や高校に配属される外国語指導助手(ALT)です。公立学校のALTは、地方自治体や教育委員会に直接雇用されるか、派遣会社を通じて配属されますが、いずれの場合も活動場所が「学校教育法上の学校」であるため、「教育」ビザの対象となります。

注意点

活動範囲が厳しく制限されています。「教育」ビザで許可されているのは、あくまでも所属先の学校での教育活動のみです。もし、休日に民間の語学スクールでアルバイトをしたり、オンラインで翻訳の仕事を請け負ったりする場合は、必ず事前に入国管理局から「資格外活動許可」を得る必要があります。無許可で行うと不法就労となり、在留資格の取消しや将来のビザ更新で著しく不利になる可能性があります。

 

在留資格「技術・人文知識・国際業務」

 どんな人のためのビザ?

このビザは「技術(理系分野)」「人文知識(文系分野)」「国際業務(外国文化に根差した業務)」という3つの分野をカバーする非常に範囲の広い就労ビザです。教育分野においては、主に「人文知識」または「国際業務」が該当します。

人文知識: 大学で言語学や教育学、経済学などを専攻した人が、その専門知識を活かして語学を教えたり、教材を開発したりする場合に該当します。

国際業務: 翻訳、通訳、語学の指導、海外取引業務など、外国人ならではの文化的背景や感性を必要とする業務が該当します。語学指導はこちらに分類されることが多いです。

審査の重要ポイント

このビザで最も厳しく審査されるのが、「申請者の学歴(または職歴)と、就職先での業務内容との間に関連性があるか」という点です。

認められやすい例: 大学で英文学を専攻した人が、英会話スクールで英語講師として働く。

説明が必要な例: 大学で政治学を専攻した人が、英会話スクールで英語講師として働く。→ なぜ政治学の知識がこの業務に活かせるのか、合理的な説明が求められます。(例:異文化理解やディベートのスキルを活かした指導を行う、など)

認められにくい例: 大学で体育を専攻した人が、IT企業でプログラマーとして働く。(この場合は「技術」分野での関連性が必要)

採用担当者は、候補者の卒業証明書や成績証明書を確認し、自社での職務内容と関連付けられるかを事前に検討することが重要です。

 

4. ケーススタディで学ぶ!こんな時はどっち?

具体的なシナリオを通じて、ビザの選択や手続きをシミュレーションしてみましょう。

ケース1:大学を卒業したばかりのAさん。日本の公立中学校でALTになるのが夢。

→ 「教育」ビザを申請します。
大学で何を専攻していたかに関わらず、学士号を取得していれば学歴要件はクリアできます。採用が内定したら、雇用主(教育委員会や派遣会社)から必要な書類を受け取り、「在留資格認定証明書」の交付申請を行うのが一般的です。

 

ケース2:英会話スクールで講師として働くBさん(「技術・人文知識・国際業務」ビザ保有)。市の教育委員会から、来年度から公立高校で直接雇用のALTとして働かないかと誘われた。

→ 「在留資格変更許可申請」が必要です。
働く場所が民間企業から学校教育法上の学校に変わるため、現在の「技術・人文知識・国際業務」ビザから「教育」ビザへの変更手続きを出入国管理局で行わなければなりません。許可なく新しい職場で働き始めると不法就労になります。

 

ケース3:高校でALTとして働くCさん(「教育」ビザ保有)。週末にオンラインで、母国の文化について日本語で紹介する動画を作成し、広告収入を得たい。

→ 「資格外活動許可(個別許可)」が必要です。
動画制作と広告収入は、「教育」ビザで許可された活動の範囲外です。事前に具体的な活動内容を明らかにして出入国管理局に申請し、個別許可を得る必要があります。許可されるかどうかは、本業への影響や活動内容などを総合的に見て判断されます。

 

ケース4:Dさんは、教育系企業に就職が決まった。仕事は、小中学生向けのオンライン英語学習コンテンツの企画・開発。

→ 「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請します。
たとえ子ども向けの教育コンテンツに関わる仕事であっても、所属先は民間企業であり、直接学校で「教える」活動ではないため、「教育」ビザの対象外です。この場合、大学での専攻(教育学、言語学、情報学など)とコンテンツ開発という業務の関連性を明確に説明することが重要になります。

 

5. 採用担当者の方へ:外国人材採用時のチェックポイント

外国人材の採用を成功させるためには、ビザに関する正しい理解が不可欠です。

まず自社の「所属機関の種類」を確認する

自社が学校法人で、学校教育法上の一条校なのか、それとも株式会社として運営する語学スクールなのかを明確にしましょう。これが、採用する人材に必要なビザの種類を決定する第一歩です。

 

候補者の学歴・職歴と業務内容の「関連性」を精査する

特に「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請する場合、この関連性が生命線です。採用面接の段階で、候補者の専攻が自社のどの業務に、どのように活かせるのかを具体的にヒアリングし、採用理由書などで説得力のある説明ができるように準備してください。

 

転職者の場合は現在の在留資格を必ず確認する

すでに日本に在住している方を中途採用する場合、現在のビザの種類と在留期限を必ず確認してください。異なるビザが必要な場合は「在留資格変更許可申請」が必要です。この手続きには1~3ヶ月程度かかることもあるため、入社日を決定する際には十分な余裕を持たせましょう。

 

6. よくある質問(Q&A)

Q1. 大学や大学院で教える場合はどのビザになりますか?

A1. 大学、短期大学、高等専門学校などで研究、研究指導、または教育を行う場合は、在留資格「教授」(Professor)の対象となります。これは「教育」ビザとは異なるカテゴリーです。ただし、大学付属の語学センターの講師などで、職務内容によっては「技術・人文知識・国際業務」が該当する場合もあります。

 

Q2. 「教育」ビザから「技術・人文知識・国際業務」ビザへの変更は難しいですか?

A2. 適切な転職先が見つかり、要件(特に学歴と業務の関連性)を満たしていれば、変更は十分に可能です。ただし、審査は新規申請と同様に厳格に行われるため、専門家である行政書士などに相談しながら、念入りに書類を準備することをお勧めします。

 

Q3. 私の大学の専攻は教育とは全く関係ありません。英語教師になるのは不可能ですか?

A3. 不可能ではありません。

ALT(「教育」ビザ)を目指す場合は、4年制大学を卒業し学士号を持っていれば、専攻内容は基本的に問われません。

英会話講師(「技術・人文知識・国際業務」ビザ)を目指す場合は、専攻と業務の関連性が重要視されるため、教育と無関係な専攻の場合は少しハードルが上がります。しかし、「国際業務」の分野で「翻訳・通訳・語学の指導」を申請する場合、母国語のネイティブスピーカーであることが有利に働くことがあります。また、関連業務で3年以上の実務経験があれば、学歴要件をカバーできる場合もあります。

 

7. まとめ

「教育」ビザと「技術・人文知識・国際業務」ビザの違いについて見てきました。この二つのビザはとても似ているようですが、ビザを取得する際の要件や、必要となる書類が異なるなど、全く違うルールにもとづいて運用されているビザになります。

最終的にどちらのビザが適切か、個別のケースで判断に迷う場合は、決して自己判断せず、出入国在留管理庁のインフォメーションセンターに問い合わせたり、ビザ申請を専門とする行政書士に相談したりすることをお勧めします。

 

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