相談者:人事部採用担当者
会社の人事部で採用担当をしています。この春、日本の大学を卒業した外国人留学生を正社員として採用しました。外国人材を雇用するのは初めてです。聞いた話では、きちんと在留資格を取得していても、海外に出張するとか、夏休みに母国に里帰りするなど、一時的にでも日本を出国するときには、所定の手続きを取っておかないと入国できなくなってしまうらしいのですが、本当なのでしょうか?手続きが必要なようであれば、その手続きについてくわしく教えてください。
回答者:行政書士
はい、本当です。在留資格を取得していても、一時的に日本を出国するときには、手続きを取っておかないと在留資格は消滅してしまいます。いま取得している在留資格を維持したまま、日本に入国する予定がある場合は、「再入国許可」または「みなし再入国許可」という許可をあらかじめ取っておく必要があります。この許可を取らずに出国してしまうと、また最初から在留資格を取り直さなくてならなくなってしまいますので、会社側でもこの点には十分に気をつけておきたいですね。
目次
1. 再入国許可を取ってから出国する必要がある
日本で中長期の在留資格をもって活動されている外国人材の皆さんにとって、本国への一時帰国や海外出張、旅行などで日本を離れる機会は少なくないことでしょう。
その際、何の手続きもせずに日本から出国してしまうと、保有している在留資格が失効し、日本へ戻るためには再びゼロから在留資格認定証明書の交付申請を始めなければならないという、極めて重大な事態を招きかねません。
このような事態を防ぎ、現在の在留資格を維持したままスムーズに日本へ再入国するために設けられているのが「再入国許可制度」です。この制度は、出国期間の長短によって「みなし再入国許可」と「再入国許可」の2種類に大別され、どちらを利用すべきかを理解しておくことが大事です。
この記事では、この2種類の再入国許可制度について、その基本的な考え方から具体的な手続き方法、そして起こりがちな失敗例や注意点まで解説してまいります。
2. なぜ「再入国許可」が必要なのか?
まず、この制度の根本的な考え方をご説明します。日本の出入国管理及び難民認定法では、在留資格を持つ外国人が日本から出国した時点で、その在留資格をもって日本に滞在する権利は消滅するのが原則です。
つまり、現在の在留資格はあくまで「日本に滞在するための許可」であり、一度出国すればその許可は終了してしまいます。しかし、これでは一時的な海外出張や里帰りの度に、時間と労力をかけて在留資格を取り直さなければならず、非常に不便ですね。
そこで、「現在の在留資格を維持したまま、一時的に出国し、再び同じ資格で日本に戻ってくること」を法的に認めるための特別な手続きが「再入国許可制度」なのです。これは、いわば在留資格の有効性を日本国外に一時的に持ち出すための「しおり」のようなものだといえるかもしれません。
3. 「みなし再入国許可」と「再入国許可」の違い
再入国許可制度を理解する上で最も重要なのが、この2つの違いです。出国期間によって使い分ける必要があります。
みなし再入国許可(Deemed Re-entry Permit)
2012年の法改正で導入された、利便性の高い簡易的な制度です。
対象となる方
有効な旅券(パスポート)と在留カードを所持する、ほぼすべての外国人の方が対象ですが、3か月以下の在留期間の在留資格の方や「短期滞在」の方は対象外です。
制度のポイント
出国期間が1年以内の場合に利用できます。
事前に出入国在留管理局(以下、入管)へ申請する必要はありません。
手数料は無料です。
手続きの方法
手続きは出国する空港の出国審査時に、非常に簡単に行うことができます。
①出国審査のときに提出する「再入国出国記録(EDカード)」の中ほどにある「□ 1.一時的な出国であり、再入国する予定です。」(I am leaving Japan temporarily and will return)のチェックボックスにチェック☑を入れます。
②出国審査の際に、パスポート、在留カードと共に、チェックを入れたEDカードを審査官に提示します。
たったこれだけで手続きは完了です。
注意点
みなし再入国許可の有効期間は、出国の日から「1年間」です。ただし、もともとの在留期限が出国後1年未満に到来する場合は、その在留期限までとなります。
そして、最も注意すべきは、この有効期間は海外で延長することが一切できないという点です。
病気や仕事の都合など、いかなる理由があっても、有効期間内に日本へ再入国しなかった場合、保有していた在留資格は完全に失効します。この「海外で延長不可」という点が、次に説明する通常の「再入国許可」との決定的な違いです。
(2)再入国許可(Re-entry Permit)
従来からある、正式な再入国許可手続きです。
対象となる方
業務の都合などで、出国期間が1年を超える可能性がある方。
制度のポイント
出国前に、お住まいの地域を管轄する入管へ事前申請が必要です。
手数料がかかります(1回限り有効:4,000円、数次有効:7,000円)。
有効期間は、現在保有している在留資格の在留期限の範囲内で、最大5年間(特別永住者の方は6年間)です。
手続きの方法
出国前にあらかじめ、居住地を管轄する入管の窓口に行って申請します。
申請書には、希望する再入国許可の種類が「一回限り」なのか「数次」なのかチェックを入れる欄がありますので、どちらにするのかをここで選択します。
原則として即日許可され、パスポートに証印(スタンプ)シールが貼付されます。
最大のメリット
この再入国許可の最大の利点は、やむを得ない理由がある場合に、海外の日本大使館・領事館で有効期間の延長が申請できる点です。
延長は1年を超えない範囲で、もともと取得している在留資格の有効期間を超えない日まで可能です。このため、1年以上の長期海外赴任や留学の可能性がある場合は、必ずこちらの再入国許可を取得しましょう。
また、許可には、1回しか使うことができない「一回限り有効」と、有効期間内であれば何回でも出入国できる「数次有効」の2種類があります。頻繁に海外出張がある方は、手数料はやや高くなりますが、数次許可を取得しておくほうがよいでしょう。
4. 2つの制度の比較まとめ
みなし再入国許可 | 再入国許可 | |
---|---|---|
対象 | 出国期間が1年以内の方 | 出国期間が1年を超える可能性がある方 |
申請場所 | 出国する空港(出国審査時) | 事前に管轄の入管に出頭 |
申請方法 | EDカードのチェックボックスに印をつける | 申請書を提出 |
手数料 | 無料 | 一回限り:4,000円 数次(何度でも):7,000円 |
有効期間 | 出国から1年(または在留期限まで) | 最大5年(在留期限の範囲内) |
海外での延長 | 不可 | 可能(一定の条件下) |
5. 「再入国許可」の具体的な申請手続き
出国期間が1年を超える可能性があるため、通常の「再入国許可」を申請する場合の具体的な流れを解説します。
ステップ1:必要書類の準備
・再入国許可申請書:入管の窓口またはウェブサイトからダウンロードできます。
・在留カード
・旅券(パスポート)
・手数料分の収入印紙:4,000円(一回限り)、7,000円(数次)。収入印紙は、入管内の売店や、郵便局、一部のコンビニエンスストアで購入できます。
ステップ2:管轄の入管へ申請
お住まいの居住地を管轄する入管の窓口へ、上記の書類を持参して申請します。申請は原則として本人が行いますが、行政書士などの申請取次者が代行することも可能です。
ステップ3:許可と証印シールの受領
書類に不備がなければ、通常はその日のうちに許可が下ります。パスポートに「再入国許可(RE-ENTRY PERMIT TO JAPAN)」と記載された証印シールの貼付と、スタンプが押されますので、有効期間が間違いないか、「数次 MULTIPLE」と書かれているかを必ず確認しましょう。
ステップ4:出国時の手続き
この再入国許可を取得した場合、空港での出国時にEDカードの「みなし再入国許可」のチェックボックスにはチェックを入れる必要はありません。出国審査官に、パスポートに貼られた証印シールを提示して出国します。
6. よくある質問と注意すべきポイント
Q1. うっかり、みなし再入国許可のEDカードにチェックを入れ忘れて出国してしまいました。どうなりますか?
A1. これは非常に重大なミスです。再入国の意思がなかったと判断され、在留資格が失効します。再度入国するためには、あらためて在留資格を取り直す必要があります。ですが、気づいた時点で、すみやかに出国審査官、現地の日本大使館・領事館に相談してみるとよいでしょう。
Q2. 再入国許可の有効期間と、在留資格の在留期限はどちらが優先されますか?
A2. 在留資格の在留期限が最優先です。例えば、再入国許可の有効期間がまだ残っていても、在留資格自体の期限が切れてしまえば、その再入国許可も無効となり、日本に戻ることはできません。海外滞在中に在留期限が到来しないよう、十分な注意が必要です。
Q3. オンラインで申請することもできますか?
A3. 出頭せずに、オンラインで申請をすることもできます。オンライン申請の場合の手数料は、3,500円(一回限り)、6,500円(数次)と、窓口よりも少し安くなります。
オンライン申請する際に準備するものは、以下のとおりです。
①マイナンバーカード
②パソコン(Google Chromeバージョン72が利用できるもの)
③ICカードリーダライタ
④JPKIクライアントソフト(公的個人認証ポータルサイトからダウンロードできます)
Q4. 代理人でも申請できますか?
A4. 法定代理人(親権者など)や、地方出入国在留管理局長から申請取次の承認を受けている弁護士・行政書士は、本人に代わって申請を行うことができます。多忙な方や手続きに不安がある方は、専門家への依頼をご検討ください。
7. おわりに
再入国許可制度は、日本で生活する外国人の方々が安心して海外との往来を行うための重要な制度です。手続き自体はそれほど複雑ではありませんが、特に「みなし再入国許可」と「再入国許可」の選択を誤り、有効期間を過ぎてしまった場合の代償は、「在留資格の失効」という非常に大きなものになります。
出国予定期間が「1年を超えるか、超えないか」を基準に、適切な手続きを選択することが何よりも肝心です。「1年を超える」可能性があるようでしたら、面倒ではありますが、入管に出頭するかオンラインで申請して、あらかじめ再入国許可を取っておきましょう。
もしご自身のケースでどちらを選択すべきか迷う場合や、申請手続きに不安がある場合は、私たちのような出入国管理業務を専門とする行政書士にご相談ください。貴社の大切な人材が、在留資格に関する不測の事態に陥ることなく、国内外で安心して活躍できるよう、的確なサポートを提供させていただきます。