相談者:人事部の採用担当者
4月に外国人男性を社員として採用し、いまは3カ月の試用期間中なのですが、本人のスキルが弊社の業務内容にマッチしていないように感じており、正社員にさせることなく、試用期間の満了をもって雇用契約を終了させたいと考えています。何か問題はありますか?
回答者:行政書士
外国人であっても日本人であっても、試用期間の満了をもって解雇すること自体は認められていますが、解雇権の濫用とみなされるような理由であってはいけませんし、入管手続きの点からも気をつけるべき点がありますので、くわしくご説明しますね。
採用担当者の皆様にとって、新しい人材を迎え入れる際の「試用期間」は、本人の適性や能力を見極めるための極めて重要な期間です。これは日本人採用でも外国人採用でも変わりません。
しかし、外国人社員の場合、もし試用期間中に「自社の業務には合わない」と判断して解雇や本採用の見送り(試用期間満了による退職)を行うことになった場合、そこには日本人採用では決して起こり得ない「在留資格(ビザ)」の問題が絡んできます。
「安易に解雇したら、会社が罰せられるのではないか?」「次の更新で入管から目をつけられるのではないか?」といった不安を抱える担当者の方は少なくありません。
本記事では、申請取次行政書士の視点から、試用期間中の解雇とビザの関係、そして企業が取るべき適正なリスク管理について解説いたします。
目次
1. 「試用期間満了での解雇」はビザにどう影響するのか?
まず、大前提として知っておくべきことは、「試用期間中、または試用期間満了をもっての解雇そのものによって、直ちに会社のビザ申請能力(招へい資格)を剥奪されるわけではない」ということです。
入管(出入国在留管理局)は、労働法に基づいた適正な手続きによる解雇であれば、それを企業の権利として認めます。しかし、外国人本人にとっては、職を失うことは「在留資格の基礎(所属機関での活動)」を失うことを意味します。ここから、企業が注意すべき3つのポイントが浮かび上がります。
(1) 「偽装採用」を疑われるリスク
もし、短期間での試用期間解雇が頻発している企業があるとしたら、入管はどう考えるでしょうか。「この会社は、ビザを取らせるためだけに形だけの雇用契約を結び、実際には働かせるつもりがないのではないか(ビザ売買の疑い)」と疑念を持たれる可能性があります。 一度このような疑いを持たれると、今後その企業が新しい外国人を採用しようとする際、審査が非常に厳しくなり、通常より多くの説明資料を求められることになります。
(2) 解雇後の「14日以内の届出」義務
外国人社員が離職した場合、企業と本人の双方が入管に対して「契約機関に関する届出(離職の届出)」を行う義務があります。 「試用期間だからまだ正式な社員ではない」ということにはなりません。この届出を怠ると、会社としてのコンプライアンスを疑われ、将来のビザ申請においてマイナス評価を受ける可能性があります。
(3) 「解雇理由」が次回の審査に与える影響
解雇された外国人が他社へ転職し、ビザを更新しようとする際、入管は「なぜ前職を短期間で辞めたのか」を確認します。このとき、もし会社側が不当な理由で解雇していたり、労働トラブルに発展していたりすると、調査が入る場合があります。
2. 労働法の視点と入管法の視点
採用担当者が最も苦労するのが、「労働法上の解雇の正当性」と「入管法上の在留の継続性」の両立です。
労働法におけるハードル
日本の労働法において、試用期間中(または満了時)であっても解雇のハードルは高いです。「なんとなく合わない」「期待していたより仕事が遅い」という主観的な理由だけでは、解雇権の濫用と見なされる恐れがあります。これは日本人であっても同様です。
入管法における視点
一方、入管法では「正当な理由なく、本来の活動(仕事)を3ヶ月以上行っていない」場合、在留資格の取消対象になります。 つまり、試用期間で解雇された学生が「次の仕事が見つからない」まま3ヶ月以上経過すると、その学生は日本にいられなくなる可能性が出てくるのです。この「追い詰められた状況」が、会社に対する労働争議(訴訟や労働局への駆け込み)を引き起こす引き金になりかねません。
3. 解雇を検討する前にすべきこと
「適性がない」と感じた際、いきなり「明日から来なくていい」と言うのは、ビザの実務上も労働法上も最悪の選択です。以下のステップを踏むことで、リスクを最小限に抑えられます。
① 教育・指導の記録を詳細に残す
入管から「なぜ短期間で辞めさせたのか」と問われた際、あるいは労働トラブルになった際、「会社としてこれだけの教育を行い、改善のチャンスを与えたが、どうしても職務の遂行が困難だった」という証拠が必要です。
・指導日誌の作成
・定期的なフィードバック面談の記録
これらは、ビザの正当性を証明する「守りの書類」になります。
② 「自己都合退職」の勧奨という選択肢
「解雇」という形をとると、本人の履歴に傷がつくだけでなく、再就職時のビザ審査で入管から厳しく事情を聴かれることになります。 本人と話し合い、「この業務はあなたには合っていないようだが、他の分野なら活躍できるかもしれない。今のうちに再就職活動を始めてはどうか」と促し、本人の納得の上で「自己都合退職」という形に落ち着けるのが、双方にとって最もリスクが低い方法です。
4. 解雇・退職が決まった後の「適正な手続き」リスト
もし試用期間での終了が確定してしまったら、以下の手続きを漏れなく、丁寧に、そして迅速に行わなければなりません。
(1) 離職票・退職証明書の迅速な発行
外国人は、転職活動の際に「なぜ辞めたのか」を新しい会社や入管に説明しなければなりません。離職理由が「試用期間満了」や「自己都合」など、客観的にわかる書類を速やかに発行してあげることが、トラブル防止の第一歩です。
(2) 「契約機関に関する届出」のサポート
前述の通り、入管への届出が必要です。窓口、郵送、またはオンラインで可能です。 多くの外国人はこの届出の存在を知りません。会社側が「これを忘れると、あなたの次のビザに響くから、一緒にやろう」とサポートしてあげることで、円満な退職を演出できます。
(3) ハローワークへの「外国人雇用状況届出」
これは法律で義務付けられています。入社時だけでなく、離職時も必ず提出してください。
5. 試用期間での解雇が招いたトラブル事例
ケースA:説明不足による「ビザ取消」の危機
あるIT企業が、スキル不足を理由にエンジニアを試用期間中に解雇しました。会社は何もサポートせず放置。本人は「ビザの期限までは日本にいられる」と思い込み、半年間アルバイトで食い繋いでいたところ、入管から「活動実態がない」として在留資格取消通知が届きました。 本人は「会社が何も教えてくれなかった」と逆上し、会社に対して損害賠償を請求。会社は入管から「雇用管理に問題あり」としてマークされることになりました。
ケースB:適正な合意退職と再就職サポート
あるメーカーが、日本語能力のミスマッチにより試用期間での終了を検討。担当者は本人と何度も面談し、本人の母国語が活かせる別の企業を(公式ではありませんが)紹介するなど協力的な姿勢を見せました。 結果として本人は納得して自己都合退職し、新しい会社でビザを更新。入管への届出もスムーズに行われたため、会社側の「外国人採用枠」への影響は一切ありませんでした。
6. まとめ
試用期間での解雇は必ずしも悪いことではなく、「ミスマッチの解消」といえるかもしれませんが、入管業務の視点では、「その外国人の人生」と「会社の採用ブランド」の両方に大きな影響を与える出来事です。
外国人採用において、試用期間は「切るための期間」ではなく、「会社と本人が、この先の数年間を共に歩めるかを確認し合う、信頼構築の最終確認期間」と捉えるべきです。
採用した外国人が、たとえ短期間で去ることになったとしても、その去り際まで責任を持って管理することが、結果として御社の「外国人採用における高い信頼性(=ビザの通りやすさ)」を築き上げることにもなるでしょう。
★退職時の手続きについては、こちらの記事もあわせてご参照ください。
【Q&A】会社を辞めて転職するとき届出や在留資格の変更は必要ですか?



