社内のPC整備、LANケーブルの配置、サーバー構築、そしてデータベースの運用・保守……。企業のデジタル基盤を支える「ITインフラ担当」の重要性は、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する現代において、もはや経営の根幹と言っても過言ではありません。
しかし、この専門分野は慢性的な人材不足にあります。そこで、世界中から高いスキルを持つ外国人を登用したいと考えるのは、非常に理にかなった経営判断だと思います。ところが、いざ採用に踏み切ろうとした際、多くの人事担当者や情報システム部門の責任者が「そもそも、どの在留資格(ビザ)が該当するのか?」「PCのセットアップや配線作業は、入管から『単純労働』とみなされて不許可になるのではないか?」という不安を抱えています。
この記事では、ITインフラ・社内システム担当として外国人を迎えるための基礎知識から、入管審査官を納得させるための高度な専門性の記述ノウハウ、実務上の落とし穴、そして具体的な手続き方法まで、申請取次行政書士がくわしく解説いたします。
目次
1. ITインフラ業務に適合する在留資格とは
社内のネットワークやデータベースを支える外国人が取得すべき在留資格は、原則として「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」です。この在留資格は一つの大きな括りですが、内部的には「技術」「人文知識」「国際業務」という3つの分野に分かれています。ITインフラやシステム運用は、理系分野の知識を必要とする「技術」の区分に該当します。
「技術」として認められる業務の「深さ」
入管の審査において「技術(IT関連)」として認められるのは、単なるマニュアル操作や物理的な作業ではなく、「大学や専門学校で学んだ学問的・体系的な知識を応用し、知的判断を伴う業務」です。
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ネットワークインフラの設計・構築: 単にケーブルを繋ぐのではなく、社内LAN/WANのトポロジー設計、ルーター・スイッチのVLAN設定、ルーティングプロトコルの最適化など、通信の安定性と冗長性を確保するための設計業務。
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サーバーの構築・管理(オンプレミス/クラウド): Windows ServerやLinuxの構築、AD(Active Directory)による権限管理、AWSやAzureといったクラウド環境への移行(リフト&シフト)およびコスト・パフォーマンスの最適化。
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データベースの運用・最適化: SQLを用いたデータベースの設計、正規化、クエリのチューニング、障害発生時のリストア手順の策定、データの整合性管理。
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情報セキュリティの堅牢化: ファイアウォールのポリシー策定、VPN(仮想専用線)の構築、IDS/IPS(侵入検知・防止システム)の監視、エンドポイントセキュリティの統合管理。
2. 単純労働との境界線をどう定義するか
ITインフラの現場では、どうしても「物理的な作業」や「定型的な作業」が発生します。ここに、専門学校生や大学生を雇用する際の最大のリスクがあります。入管は、この「現場作業」が主目的であると判断した場合は、「不許可」の判断を下すでしょう。
入管が「単純労働」と疑う3つのポイント
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PCのキッティング業務: 段ボールからPCを取り出し、初期設定(アカウント作成やWi-Fi接続)をするだけの作業。これは「エンジニアでなくてもできる」とみなされます。
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LANケーブルの物理的な敷設: 床の下にケーブルを通したり、机に配線したりする作業。これは「電気工事や内装作業」に近いと判断されます。
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初歩的なヘルプデスク: 「印刷ができない」「画面が固まった」という問い合わせに対し、マニュアル通りにリセットを指示するだけの業務。
審査を突破するための「高度な言語化」テクニック
雇用理由書を作成する際は、これらの作業を「エンジニアとしての知的判断の結果」として再構成する必要があります。採用担当者が入管に説明する際も、この視点が不可欠です。
ただ難しい言葉を使えばいいというものでもありませんが、単純作業に見える業務であっても、その作業をするための前提となる知識が必要になることが多いと思いますので、それを言語化することが重要です。
以下はその一例です。
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キッティングをどう説明するか: 「組織全体のセキュリティポリシーに基づき、マスターイメージ(OSの標準構成)を設計し、各端末に適切なセキュリティパッチとデバイス管理ツール(MDM)を配布・適用する、エンドポイントの統合管理業務である」と説明することができるでしょう。
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LAN配線をどう説明するか: 「物理層におけるパケットの衝突やノイズ干渉を最小限に抑え、パケットロスを許容しないミッションクリティカルな通信インフラを物理・論理の両面から実装する業務である」と説明することができるでしょう。
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ヘルプデスクをどう説明するか: 「ユーザーからのトラブル報告を単に解決するのではなく、ログ解析やパケットキャプチャを用いて根本原因(Root Cause)を特定し、システム全体の構成変更やパッチ適用による恒久的な対策を立案・実施するインシデント管理業務である」と説明することができるでしょう。
3. 採用候補者の適格性を判断する「学歴・資格・職歴」の精査
内定を出す前に、本人のバックグラウンドが「技術」のビザに合致するか、以下の基準で厳密にチェックしてください。ここでの確認ミスは、その後の数ヶ月間の採用活動をすべて無駄にしてしまいます。
① 大学卒業(日本または海外)の場合
大学卒の場合、専攻と業務内容の関連性は「緩やか」に判断されますが、ITインフラのような技術職では一定の整合性が必要です。
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情報工学・システム工学専攻: 許可される可能性が極めて高いです。
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数学・物理・電気電子専攻: 論理的思考の基盤があるとして、IT職種への適合性は高く認められます。
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文系専攻(経済・商学など): 大学の成績証明書を精査し、プログラミング、統計学、情報リテラシー、経営情報システムなどの科目を一定数(10科目程度以上が目安)履修している必要があります。もし履修が極端に少ない場合、独学だけでは「技術」のビザは難しいです。
② 日本の専門学校卒業(専門士)の場合
専門学校卒の場合、入管の審査は「針の穴を通すような厳格さ」に変わります。
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学科名の重要性: 「情報処理科」「ネットワークエンジニア科」など、名称からしてITに関連していることが大前提です。
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専攻との完全一致: 例えば、同じ専門学校卒でも「ビジネス科」の学生がITインフラ担当としてビザを取ることは、実務上ほぼ不可能です。専門学校生をIT担当で雇うなら、ITの学科を卒業していることが絶対条件だと考えてください。
③ 資格による「学歴・職歴のバイパス」ルート
実は、学歴がなくても「技術」のビザが取れる「特例」があります。法務大臣が告示で定めるIT試験に合格していれば、学歴・職歴を問わず「技術」の要件を満たしたとみなされます。
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該当する試験の例: 基本情報技術者試験、応用情報技術者試験、ネットワークスペシャリスト試験など(海外の互換試験も含む)。
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活用シーン: 「海外で長くインフラエンジニアをしていたが、大学は中退してしまった」というベテランを採用したい場合、このルートが救いとなります。
④ 職歴10年ルート
学歴も資格もない場合、IT関連の実務経験が通算10年以上あれば申請可能です。ただし、10年前の会社の在籍証明書を海外から取り寄せる必要があり、立証の難易度は極めて高いです。
4. 「受け入れ基盤」と「業務量」の立証:なぜ小規模企業は落ちるのか
本人にどれだけ能力があっても、会社側に「その人をフルタイムで雇う必然性」がなければ許可は降りません。
業務量の算定ロジック
入管の審査官はこう考えます。「この会社は社員が5名しかいないのに、PCやサーバーの管理だけで1日8時間、年間2000時間の仕事があるのか?」
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小規模企業(〜20名程度)の場合: 社内インフラの管理だけでは「業務量不足」として不許可になるリスクがあります。この場合、「自社サービスのサーバーインフラ構築」「外部クライアントからのネットワーク受託案件」「社内システムのスクラッチ開発」など、ITインフラ以外のエンジニア業務も兼務することを具体的に示す必要があります。
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中大規模企業(50名〜): PCのキッティング、資産管理、セキュリティ監査、VPN運用、クラウド管理など、組織維持のためのIT業務だけで1名分のフルタイム雇用を正当化しやすくなります。
報酬の適正性(日本人との平等)
「外国人だから安く雇える」というのは大きな間違いです。
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給与額: 同等の職務に就く日本人社員と同じ、あるいはそれ以上の給与を支払う必要があります。
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比較対象: 同等職務の日本人がいない場合は、地域の求人相場(ITインフラエンジニアの初任給など)を下回っていないことが重要です。
5. 内定から入社までの全プロセスと書類作成のポイント
手続きは非常に煩雑です。人事担当者が迷わないよう、時系列で整理しました。
① 【内定直後】書類収集(約2週間〜1ヶ月)
本人からパスポート(写し)、卒業証明書、成績証明書等の提出を受けます。
同時に、企業側では以下の書類を準備します。
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直近の決算書(貸借対照表、損益計算書)
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前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
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雇用契約書(職務内容、給与額、就業場所を明記)
② 【申請準備】雇用理由書の作成
これが審査の成否を分ける「キモ」と言っていいかもしれません。以下の構成で記述します。
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採用の背景: 会社の事業拡大やDX推進の必要性。
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申請人の選定理由: なぜ他の誰でもなく「彼(彼女)」なのか。その専門性が自社にどうフィットするか。
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具体的な職務内容: 本記事でも解説した「高度な言語化」を用いて、ITインフラ業務の詳細を記述します。
③ 【入管申請〜審査】(約1ヶ月〜3ヶ月)
管轄の出入国在留管理局に申請を行います。
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カテゴリー判定: 上場企業や売上規模の大きい企業(カテゴリー1・2)は、提出書類が簡略化され、審査も早くなります。一方、中小企業や新設企業(カテゴリー3・4)は、提出書類が多くなり、審査も慎重に行われます。
④ 【許可後】入社準備(約1週間〜1ヶ月)
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国内転職者の場合: 新しい在留カードを受け取れば、その日から働けます。
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海外呼び寄せの場合: COEを海外へ送り、本人が現地の大使館でビザを取得。その後来日し、空港で在留カードを受け取ります。
技術・人文知識・国際業務ビザの手続き方法については、よろしければこちらの記事もご参照ください。
外国人の技術・人文知識・国際業務ビザ取得完全マニュアル|人事担当者向け
6. ITインフラ担当採用で絶対にやってはいけない「NGアクション」
失敗事例から、採用担当者が避けるべきリスクを学びましょう。
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NG:入社後すぐに「現場の力仕事」だけをさせる 入管の「実態調査」や、次回のビザ更新時に「実際にはLAN配線とPC運びしかさせていない」ことが判明すると、虚偽申請とみなされ、会社は今後の外国人採用ができなくなる可能性があります。
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NG:不況を理由に、IT担当を「倉庫整理」や「事務」に回す これも在留資格の範囲外の活動(資格外活動)となり、本人が退去強制になるリスクがあります。あくまで「技術」の範囲内の業務を維持しなければなりません。
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NG:昇給させない 日本人の同僚が昇給しているのに、外国人エンジニアだけ据え置きにしていると、更新時に「報酬要件」で引っかかることがあります。
7. 専門家に任せることで得られるものとは
ITの世界は物理的な国境を越え、万国共通のプロトコルで動いています。社内のシステムやデータベースを支える人材として外国人を迎えることは、単なる人手不足の解消にとどまりません。24時間365日の保守体制の構築や、最新のグローバル・スタンダードなセキュリティ技術の導入、そして多様な視点によるシステム改善など、企業に計り知れない恩恵をもたらします。本記事が、貴社のITインフラを支える新しい仲間を迎えるための、確実な道標となれば幸いです。
もし、「この候補者の経歴で本当に大丈夫か?」「理由書の書き方に自信がない」と思われましたら、入管手続きを専門とする当事務所にご相談ください。
行政書士に依頼することで得られる3つの「確実性」
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「不備」による致命的な遅延を回避: ITプロジェクトには納期があります。「ビザが降りないから入社が半年遅れる」という事態を避けるための保険となります。
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「現場の専門用語」を入管の「審査用語」に変換: 例えばエンジニアが書いた「サーバーのパッチ当て」という言葉を、審査官が理解しやすい言葉に変換して説明できるのは、入管手続きを熟知した行政書士だけです。
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不許可リスクの事前予見: 「この経歴では今の入管の傾向だと危ない」という情報を申請前に提供し、対策を練ることができます。
相談は無料で承っております。相談してみた結果、「やはり自社でやることにした」「他の事務所に頼むことにした」となっても大丈夫です。あとからお電話やメールで勧誘することもありませんので、安心してご相談ください。
貴社のデジタル基盤を支える「救世主」を、ビザの側面から全力でサポートし、確実に貴社の一員として迎え入れるお手伝いをさせていただきます。



