目次
1. 「食」で繋がる夢と、「オーナーシェフ」という高い壁
「母国のソウルフードを、日本に住む同郷の人たちに提供し、喜ばせたい」 「まだ知られていない本物の郷土料理を、日本人に広めて、その素晴らしさを伝えたい」
「食」には、国境や文化を超えて人々を繋ぐ力があります。その情熱を胸に、日本で自国の料理店を開業するという夢を持つ外国人は、数え切れないほどいらっしゃいます。
しかし、日本で「自ら経営し、自ら厨房に立つ」という、いわゆる「オーナーシェフ」になる夢の前には、日本の在留資格(ビザ)制度の高い壁があります。
なぜなら、
- 「経営・管理」ビザ(経営者のビザ)は、経営者が現場労働(=調理)をすることを原則として認めていません。
- 「技能」ビザ(料理人のビザ)は、料理人が経営活動をすることを認めていません。
つまり、「経営」と「調理(現場労働)」を合法的に一人の人間が行うことを、活動ベースの就労ビザは許可していないのです。
では、どうすれば「オーナーシェフ」になれるのか? この記事では、日本でオーナーシェフになるための在留資格の選択肢について解説していきたいと思います。
2. 経営者(オーナー)への2つのルート
自らが出資し、店のオーナーとして、自分の理想の店を作りたい。 この「経営者」になる道は、あなたの在留資格によって、スタートラインがまったく違っています。
- ルートA: 「オーナーシェフ」になれる、ビザの制約がない最強の道
- ルートB: 「経営」に専念するしかなく、「オーナーシェフ」にはなれない道
ルートA:オーナーシェフへの王道・就労制限のない「身分系ビザ」で経営する
もし、あなたがこれからご説明する「身分系ビザ」を既にお持ちの場合、在留資格(ビザ)の観点からは、日本人と全く同じ条件で、今すぐ飲食店の経営に挑戦することができます。
「身分系ビザ」とは?
これは、「●●の仕事をするため」という活動ベースのビザとは異なり、「日本社会との結びつき(身分・地位)」に基づいて与えられる在留資格です。 具体的には以下の4つが代表的です。
- 永住者
- 日本人の配偶者等 (日本人と結婚している方)
- 永住者の配偶者等 (永住者と結婚している方)
- 定住者(日系人の方、離婚・死別定住の方など)
これらの在留資格は、「就労活動に一切の制限がない」ことが最大の特徴です。
2. なぜ「オーナーシェフ」になれるのか?
身分系ビザを持つ方が飲食店を経営する場合、次に解説する「経営・管理」ビザの取得希望者が直面する、ほぼ全ての「ビザの壁」が存在しません。
メリット①: 経営者自身が「現場の仕事(調理・接客)」に専念できる
これが最大のメリットです。「経営・管理」ビザで最も問題となる「名ばかり経営者(経営者が現場労働しかしていない)」という入管の懸念が、一切ありません。
あなたが「オーナーシェフ」として一日中厨房に立って鍋を振り、ホールで接客をしても、在留資格上は全く問題ないのです。あなたの理想とする店を、あなた自身の手で作り上げることができます。
メリット②: 資本金3,000万円の要件が「ない」
「経営・管理」ビザの取得には、「資本金3,000万円以上」という厳しい要件があります。身分系ビザの方はビザを取得する必要がないため、この要件に縛られません。 極端な話、自己資金100万円で小さな屋台や間借りカフェからスタートすることも、法的には全く問題ありません。(※もちろん、事業を継続できるかは別問題です)
メリット③: 事業の赤字が「即ビザ喪失」に繋がりにくい
「経営・管理」ビザは、事業が赤字続きで「事業の継続性なし」と判断されると、ビザの更新ができません。 一方、身分系ビザの更新審査は、主にその「身分関係」が継続しているか(例:日本人との婚姻関係が実態を伴って続いているか、永住者として日本で生活基盤を維持しているか)が中心です。 事業が赤字になったからといって、それが直接ビザの更新不許可に繋がるリスクは、「経営・管理」ビザに比べて格段に低いのです。(※ただし、納税や公的義務の履行は厳しく審査されます)
メリット④: ビジネスだけに集中することができる
飲食店開業には「入管(ビザ)」の他に、保健所の営業許可を取得する必要があります。身分系ビザの方は、「入管の壁」を気にする必要がありませんので、純粋に、どうすれば保健所の基準をクリアできるか、どうすればお客様に愛される店を作れるか、という「ビジネスそのもの」に100%集中して取り組むことができます。
ルートB:在留資格「経営・管理」を取得して経営に専念する
もし、あなたが上記の「身分系ビザ」を持っておらず、現在「留学」や「技術・人文知識・国際業務」ビザで在留している、あるいは母国から直接日本に来て開業したい場合、あなたが選ぶべき道は、この「経営・管理」ビザの取得するか、「身分系」ビザを取得するしかありません。
「経営・管理」ビザの取得を選んだ場合、あなたは「オーナーシェフ」になることはできず、「純粋な経営者」に専念する必要があります。
永住権の取得方法については、よろしければこちらの記事をご参照ください。
永住権を取得するポイントを解説【就労ビザからの資格変更】https://kiyoshiyokokawa-office.com/permanent-residence/
なぜ「オーナーシェフ」になれないのか?
入管が審査する「経営・管理」ビザは、その名の通り、申請者が日本で「経営活動」や「管理活動」(資金繰り、人事管理、マーケティング、仕入れ交渉など)に従事することを許可するものです。
一方、飲食店の現場では「現業(げんぎょう)」(調理、接客、清掃)が必ず発生します。
入管が最も恐れるのは、「経営者」としてビザを取得したはずの外国人が、実際には人手不足を理由に、一日中厨房で鍋を振っている(=現業にしか従事していない)という、「名ばかり経営者」の状態です。
もしあなたの事業計画が、「自分がシェフとして調理も担当する」というものであれば、入管は「あなたの主たる活動は『調理(現業)』であり、『経営』ではない」と判断し、ビザを不許可にする可能性が高くなります。
経営・管理ビザ取得の「壁」
なお、経営・管理ビザを取得するためには、以下のような要件をすべて満たす必要があります。
- 資本金3,000万円以上 : これが最低条件です。そして、この3,000万円が「いつ、どこから、どのように」あなたの元に来たのか、通帳の履歴(送金記録など)で「見せ金」ではないことを厳しく証明する必要があります。
- 常勤職員1名の雇用 : 自分以外に必ず1名は人を雇用する必要があります。その常勤職員は、日本人、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者のいずれかに限ります。
- 高度な日本語能力: 日本語能力試験(JLPT)N2以上の認定を受けていることなど、高い日本語能力があることを証明しなければなりません。
- 経歴(学歴・職歴): 経営管理又は申請に係る事業の業務に必要な技術又は知識に係る分野に関する博士、修士若しくは専門職の学位を取得していること、または、事業の経営又は管理について3年以上の経験を有する必要があります。
- 事業計画書の提出: 本当にその事業をやっていくことができるのかを説得力をもって説明しなければなりません。そして、その計画に具体性、合理性があり、かつ、実現可能なものであることを、経営に関する専門的な知識を有する者(中小企業診断士、税理士、公認会計士)の確認を受ける必要があります。
経営・管理ビザについては、よろしければこちらの記事もご参照ください。
経営管理ビザの要件変更を解説(令和7年10月16日施行)https://kiyoshiyokokawa-office.com/keiei-kanri-visa-youken-henkou/
3. 料理人(シェフ)の道・「技能」ビザという専門職の選択肢
「自分は経営よりも、料理の腕で勝負したい」 「まずは日本のレストランでシェフとして働き、日本での経験を積みたい」
そう考える方には、「技能(ぎのう)」という在留資格の道があります。これは、自ら経営するのではなく、日本の飲食店(または外国人経営者の店)に「専門的な技術を持つ料理人」として雇用されるためのビザです。
「技能」ビザ取得の最大の壁:「10年の実務経験」
このビザを取得するためには、あなたの料理が「外国特有の料理」であり、かつ、その調理に関して「10年以上の実務経験」があることが条件です。
- 対象となる料理: 中華料理、フランス料理、インド・ネパール料理、タイ料理、ベトナム料理など、「外国特有の熟練を要する料理」が対象です。
- 「10年」の証明: この10年間を、「在職証明書(ざいしょくしょうめいしょ)」によって客観的に証明しなければなりません。合計して「10年」以上になるよう、過去の勤務先から証明書を集める必要があります。 (※タイ料理に限り、5年以上の実務経験+タイ国の技能認定という例外あり)
- (身分系ビザの場合): もしあなたがルートAの「身分系ビザ」を持っているなら、この「10年の実務経験」は一切不要です。経験が1年でも、未経験でも、料理人として雇ってもらうことができます。
雇用主(レストラン)側の要件
あなたに10年の経験があっても、雇う店側が、あなたに毎月安定した給与(日本人シェフと同等以上)を支払い続けられる経営基盤(売上、利益)があることが必要です。
「技能」ビザで「できない」こと
- 経営活動: あなたは「料理人」です。経営判断はできません。
- ホール業務(原則): あなたの仕事は「調理」です。ホールでの接客や皿洗い、レジ打ちだけを行うことは、在留資格違反となります。
4. ホールスタッフ(接客)の道
「料理はできないが、母国語と日本語を活かして、接客やマネジメントをしたい」
この「ホールスタッフ(接客・ウェイター)」という仕事は、フルタイムの就労ビザを取得するのが最も困難な道です。理由は、入管がホール業務の多くを「単純労働」(専門知識を要しない仕事)と分類しているためです。
ホールスタッフとして働くための「4つの(限定的な)道」
①【学生】「留学」ビザ + 資格外活動許可(アルバイト)
- 最も多いパターンです。
- 「資格外活動許可」を取得することで、週28時間以内のアルバイトが許可されます。
- 限界: あくまでアルバイトです。卒業すれば働けません。
②【身分系】「日本人の配偶者等」「永住者」など
- 第1章のルートAと同じ「身分系ビザ」です。
- これらのビザは就労制限がないため、日本人と全く同じように、ホールスタッフとしてフルタイムで働くことができます。
③【試験合格者】「特定技能1号(外食)」ビザ
- 日本の人手不足解消のために、2019年から始まった新しい在留資格です。
- 取得の壁: 「日本語試験(N4以上)」と「外食業技能測定試験」の2つに合格する必要があります。
- 限界: 「1号」は通算最長5年間しか滞在できず、原則として家族(配偶者や子供)を日本に呼ぶことはできません。
④【大卒幹部候補】「技術・人文知識・国際業務」ビザ
- これは「大卒ホワイトカラー」向けのビザ(技人国ビザ)です。
- 「ホールスタッフ(接客)」でこのビザを取ることは、原則として不可能です。
- 唯一の例外: 単なる接客ではなく、「将来の店長・幹部候補として、売上管理、従業員教育、マーケティング、通訳・翻訳業務など、高度な専門知識(大学で学んだ経営学など)を要する業務に、業務時間の大半(50%以上)従事する」ことが証明できる場合のみ、許可される可能性があります。
5. オーナーシェフへの現実的なロードマップ
「母国の味を日本に広めたい」という夢を実現するには、3つの立場(経営者、料理人、ホール)があり、それぞれ必要なビザが全く異なります。
そして、外国人が「オーナーシェフ(経営と調理の両方を行う)」になる夢を叶えたい場合、 「経営・管理」ビザでスタートする道は、原則として選べません。
「オーナーシェフ」になるための現実的なルートは、「永住権」または「日本人の配偶者等」といった『就労制限のない身分系ビザ』を取得すること、ということになります。
【オーナーシェフになるための典型的なロードマップ】
ステップ1:日本での活動基盤を作る
A案(就労ビザルート): 「技能」ビザで来日し、日本のレストランで料理人として働く。
B案(留学ルート): 「留学」ビザで来日し、大学や専門学校で経営や調理を学ぶ。
C案(結婚ルート): 日本人や永住者と結婚し、「日本人の配偶者等」または「永住者の配偶者等」ビザを取得する。
ステップ2:日本社会への定着と貢献
・A案・B案の場合、日本で働き(または卒業後就職し)、納税の義務、年金・健康保険の支払い義務を完璧に果たします。交通違反などの法律違反をしないよう、真面目な在留を続けます。
ステップ3:「永住権」の取得
・日本に継続して原則10年間(うち5年間は就労資格、または居住資格であることが必要)在留し、上記の義務を果たし続けると、「永住者」の在留資格を申請する権利が得られます。
・この審査をクリアし、「永住権」を取得します。
ステップ4:夢の実現
・「永住者」という、就労制限が一切ない最強のビザを手に入れます。
・このビザがあれば、あなたは日本人と全く同じ立場で、資本金の額に縛られず、自ら厨房に立ち、自ら経営する「オーナーシェフ」として、理想のお店を合法的に開業することができます。
・C案のように、日本人や永住者と結婚することによっても、一切の制限なくオーナーシェフになることができます。
あなたの夢が「経営に専念すること」であれば「経営・管理」ビザを目指すことになりますが、あなたの夢が「オーナーシェフ」になることであれば、まずは「永住権」を取得することを目標に、長期的な計画を立てる必要がありますね。
国境を越えて、日本に自分の国の料理を紹介したい、同郷の人たちに懐かしい料理を食べさせてあげたい。その夢の実現のためには、ビザという壁がありますが、入管手続きの専門家である行政書士に相談することでスムーズに進められることもありますので、よろしければお気軽にご相談ください。



