相談者:IT企業に勤める20代の外国人女性
ITに関する技術や知識を増やしてキャリアアップしたいので、専門学校に通いたいと思っています。いま持っているビザの種類は「技術・人文知識・国際業務」なのですが、このビザのままで専門学校に通っても問題がないのかどうかが心配です。
回答者:行政書士
スキルを磨いてキャリアアップを目指すのは素晴らしいことですね。就労ビザのままでも専門学校に通うことは可能です。ただし、通い方によっては、在留期間更新のときに不許可になるなどのリスクが考えられますので、注意が必要です。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格(以下、就労ビザ)を持って日本の企業で働いている外国人の方から、「キャリアアップのために専門学校や大学に通いたい」「もっと日本語を勉強するために日本語学校に通いたい」という相談を受けることがよくあります。
向上心を持って学ぶことは素晴らしいことです。ただし、日本の入管法において、就労ビザのまま学校に通うことは、一歩間違えると「不法就労(活動外活動)」や「在留資格の取り消し」につながる非常にデリケートな問題でもあります。
結論から申し上げますと、「就労ビザのまま学校に通うこと自体は禁止されていないが、『通い方』によっては高いリスクが生じる」というのが答えになるかと思います。
この記事では、どのようなケースが問題となるのか、何に気をつけなければならないのかに重点を置き、就労ビザと学業の両立について解説いたします。また、最後に「経営・管理ビザ」のまま学校に通う場合についても補足説明します。
目次
1. 「主たる活動」はどちらか?
まず、入管法の基本的な考え方を理解しておきましょう。
1. 勉強は「許可」がいらない活動
通常、ビザ(在留資格)には許された活動範囲があります。 しかし、学校に通って教育を受ける活動(留学)に関しては、「その活動が、本来の活動(就労)を妨げない限り」、特段の許可なく行うことができます。 つまり、仕事の余暇を使って英会話スクールに行ったり、料理教室に通ったりするのに、いちいち入管の許可はいりません。これと同じ理屈で、専門学校や大学であっても、あくまで「余暇」であれば問題ありません。
2. 「働くこと」がメインでなければならない
問題はここです。 「技術・人文知識・国際業務」ビザは、日本でフルタイムの業務に従事するための資格です。入管はあなたを「労働者」として認めて在留を許可しています。
もし、あなたが学校に通うことで、「学生生活がメイン(主たる活動)」になり、「仕事がサブ(従たる活動)」になってしまったらどうなるでしょうか? それは、「技術・人文知識・国際業務」の活動を行っていないとみなされ、在留資格の該当性が失われます。 最悪の場合、在留期間の更新が不許可になったり、在留資格が取り消されたりします。
2. 具体的に何が「問題」になるのか?
では、どのような通い方がアウトで、どのような通い方がセーフなのでしょうか。 特に「専門学校」に通う場合に発生しやすい3つの問題点を解説します。
問題点①:時間の物理的なバッティング(昼間部への通学)
日本の多くの専門学校(昼間部)は、平日の朝から夕方まで授業がびっしり詰まっています(例:月~金、9:00~16:30など)。
ここで矛盾が生じます。 「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得するには、通常、会社とフルタイムの雇用契約を結んでいるはずです。 もしあなたが平日の昼間にある専門学校に通っているとしたら、「いつ会社で働いているのですか?」という話になります。
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会社を休職して通う → アウトです。就労ビザは「稼働していること」が前提ですので、長期間(数ヶ月単位)休職して学校に通うと、次回の更新で「活動を行っていなかった」として不許可になります。
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会社を辞めて通う → 完全にアウトです。会社を辞めた時点で就労ビザの根拠はなくなります。速やかに「留学」ビザへ変更しなければなりませんが、留学ビザではアルバイト(週28時間)しかできず、生活費の問題が出てきます。
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時短勤務にして通う → 非常に危険です。週3日勤務や、1日4時間勤務などで正社員としての給与水準(月20万円以上など)を維持できるならギリギリ可能性はありますが、入管は「それは実質的に学生(留学ビザが必要)ではないか?」と判断する可能性が高いです。
問題点②:出席率と成績の維持
「会社には内緒で、有給や半休を駆使して通う」「夜勤の仕事だから昼間は通える」という方もいるかもしれません。 しかし、専門学校は卒業するために高い出席率を求めます。一方で会社は業務成果を求めます。
ダブルスクール(仕事+学校)生活で体調を崩し、「会社の欠勤が増える」あるいは「学校を退学になる」というケースが後を絶ちません。 会社を休みがちになれば解雇のリスクがありますし、ビザ更新の際に提出する「課税証明書」の年収額が激減していれば、入管に「ちゃんと働いていなかった」ことがバレてしまいます。
問題点③:所属機関(会社)との契約違反
多くの企業の就業規則では、副業や、業務に支障をきたす活動を制限しています。 会社に隠れて専門学校に通い、その疲れで居眠りをしたりミスを連発したりすれば、懲戒処分の対象になります。 会社をクビになってしまえば、元も子もありません。学校に通うなら、必ず会社の理解と協力が必要です。
3. ビザ更新時の審査で何が見られるか?
無理をして仕事と学校を両立させることができたとしましょう。 最大の難関は、次回の「在留期間更新許可申請」のタイミングです。入管の審査官は書類の数字からあなたの生活実態を見抜きます。
1. 住民税の課税証明書・納税証明書
更新時に提出する書類です。ここに記載されている「給与収入」が、以前の申請時と比べて極端に下がっていないかが見られます。
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「学校に通うために残業を減らした」
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「週3日勤務の契約に変えてもらった」 もし年収が200万円を切るような状態になっていれば、入管は「この人は日本で安定的・継続的に生活できない」「主たる活動が就労ではなくなっている」と判断し、更新を不許可にする可能性があります。
2. 所属機関(会社)での稼働実態
場合によっては、出勤簿やタイムカードの提出を求められることがあります。 そこで平日の日中に働いていない記録が出てくれば、「技術・人文知識・国際業務」の活動実態がないとみなされます。
4. 安全に通うためには
ここまでリスクばかりをお伝えしましたが、絶対に不可能というわけではありません。 就労ビザを維持したまま学校に通う場合、以下の条件を満たす必要があります。
1. 「夜間部」「土日コース」「通信制」を選ぶ
これが最も現実的かつ安全な選択肢です。 平日の日中(9:00~18:00頃)は会社でフルタイム正社員として働き、業務終了後の夜間や、土日を使って通学するのであれば、入管法上まったく問題ありません。 これなら「主たる活動=就労」を維持しつつ、「従たる活動=学業」を行う形になるからです。
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夜間制の専門学校:働きながら通う社会人を想定しており、ビザのリスクも低いです。
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通信制大学(オンライン):場所や時間を選ばないため、仕事への影響を最小限に抑えられます。
2. 会社に報告し、許可を得る
トラブル防止のため、会社には「業務時間外に学校に通ってスキルアップしたい」と伝え、承諾を得てください。 もし通学のために「定時退社」や「シフト調整」が必要になるなら、なおさらです。
3. 「留学ビザ」への変更を検討する
もし、あなたが「どうしても平日の昼間に開講されているコースで学びたい」「仕事よりも勉強を優先したい」と考えるなら、就労ビザに固執すべきではありません。 会社を辞め(あるいは休職し)、在留資格を「留学」に変更するのが正しい筋道です。
ただし、「留学」ビザにすると就労制限(週28時間以内のアルバイトのみ)がかかります。 「今の給料をもらったまま、昼間の学校に行きたい」というのは、日本の入管制度上、認められない「いいとこ取り」だということを理解しましょう。
5. 「経営・管理」ビザの場合
最後に、会社の社長や役員が持つ「経営・管理」ビザについても触れておきます。 こちらは「技術・人文知識・国際業務」よりも、さらにハードルが高くなります。
1. 「経営」の実態が厳しく問われる
経営・管理ビザの要件は、「事業の経営を行い、または管理に従事すること」です。 これには「実質的な経営活動」が求められます。
もし社長であるあなたが、専門学校の昼間部に入学し、毎日朝から夕方まで学校にいたらどうなるでしょうか? 入管はこう考えるでしょう。 「社長が毎日学校に行っている間、誰が会社を経営しているのか?」「そもそも本当にビジネスをしているのか?」
2. 名ばかり社長の疑い
留学生が「週28時間制限」を超えて働くために、ペーパーカンパニーを作って「経営・管理」ビザを取り、実際には学校に通いながら他で労働する…という脱法行為を入管は警戒しています。「経営・管理ビザの人が学生になること」に対して、非常に厳しい目を向けているといってよいでしょう。
3. 経営・管理ビザでも可能なケース
技術・人文知識・国際業務と同様に、「夜間大学院(MBAなど)」や「週末コース」に通うことは問題ありません。 多くの経営者が、経営スキルを磨くために社会人大学院に通っています。 重要なのは、「平日の日中はしっかりと社長業・管理業を行っている」という実績と証拠を残せるかどうかです。
6. まとめ
「技術・人文知識・国際業務」ビザや「経営・管理」ビザを持つ外国人が、専門学校などに通う場合、どのようなことを考えなければならないかをまとめておきました。
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禁止はされていないが、「仕事がメイン」でなければならない。
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平日の昼間部に通うのは、事実上不可能(ビザ違反のリスク大)。
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通うなら「夜間部」「土日」「通信制」を選び、仕事に支障を出さないこと。
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学業を優先したいなら、潔く「留学」ビザへ変更すべき。
「バレなければ大丈夫」と思って無理なダブルスクールを始めると、数年後のビザ更新の際に、取返しのつかない事態(不許可・帰国)を招くことになりかねません。
ご自身のキャリアプランにとって、今優先すべきは「仕事(今のビザの維持)」なのか、それとも「学業(新しいスキルの習得)」なのか。 その優先順位によって、適切なビザの種類は変わります。
もし、ご自身の働き方と通学プランが法的に問題ないかが不安な場合は、入学手続きをする前に、ビザの手続きを専門とする当事務所にご相談ください。「知らなかった」では済まされない入管法のリスクを回避し、安全なキャリアアップを応援します。
相談は無料です。相談してみた結果、「やはり通学はやめることにした」「自分で手続きをすることにした」となっても大丈夫です。あとから電話やメールで勧誘することもありませんので、安心してご相談ください。
外国人の方を雇用する企業の担当者さまや、学校関係者の方からのご相談も承っております。



