目次
1. 配偶者のキャリアという、もう一つの重要な課題
日本でのキャリアや研究、留学生活をスタートさせるにあたり、ご家族、特にご自身の「配偶者」を帯同される方は非常に多いことでしょう。新しい国での生活を設計する上で、「配偶者は日本で働くことができるのか?」「できるとしたら、どんな仕事が、どのくらい許されるのか?」という点は、生活の質や家計、そして配偶者ご自身のキャリアプランにとって、極めて重要な問題です。
日本の出入国在留管理制度(入管法)において、配偶者が行うことのできる活動(特に就労)は、「ご本人(主たる在留者)の在留資格が何か」によって大きな違いがあります。
- アルバイト(週28時間)しかできないケース
- 時間も職種も関係なく、フルタイムで自由に働けるケース
- 原則、一切の就労が認められないケース
これらを知らずに日本での生活をスタートさせてしまうと、「こんなはずではなかった」という事態になりかねません。
この記事では、日本に在留する外国人の方の「配偶者」という立場に着目し、ご本人の在留資格ごとに「配偶者が取得する在留資格」と「それによって許可される活動(特に就労)」について解説していきます。
(※この記事でいう「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある者を指し、内縁関係や婚約者は含まれません。)
2. ひと目でわかる・在留資格別「配偶者の活動」比較一覧表
まずは、この記事の結論とも言える比較表をご覧ください。ご自身の在留資格(または取得予定の在留資格)が、配偶者の活動にどう影響するか、を一覧表にしました。
配偶者がすることのできる就労活動に応じてA群からD群まで分類してあります。
| ご本人(主たる在留者)の在留資格 | 配偶者が取得する 典型的な在留資格 |
配偶者の就労活動 | 主な条件・注意点 |
|---|---|---|---|
| 【A】 高度専門職 /
J-Skip(特別高度人材) |
特定活動
(告示35号など) |
◎ 可能 (フルタイム可) | 時間・職種の制限なし
※ご本人の地位に連動 |
| 【B】 日本人の配偶者等 | ―(ご本人が該当) | ◎ 可能 (フルタイム可) | 制限一切なし
(単純労働・起業も自由) |
| 【B】 永住者 | 永住者の配偶者等 | ◎ 可能 (フルタイム可) | 制限一切なし
(単純労働・起業も自由) |
| 【B】 永住者の配偶者等 | ―(ご本人が該当) | ◎ 可能 (フルタイム可) | 制限一切なし
(単純労働・起業も自由) |
| 【B】 定住者 | ―(ご本人が該当、または
「家族滞在」や「定住者」) |
◎ 可能 (フルタイム可) | 制限一切なし
(※配偶者が「家族滞在」の場合はC群) |
| 【C】 技術・人文知識・国際業務 | 家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【C】 経営・管理 | 家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【C】 留学 | 家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【C】 企業内転勤 | 家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【C】 法律・会計業務、医療、 研究、教育、宗教、芸術、報道など |
家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【D】 文化活動 | 家族滞在 | △ 条件付きで可能 | 原則不可。
「資格外活動許可」取得で週28時間以内。 |
| 【D】 短期滞在 | ―(配偶者も短期滞在) | × 不可 | 一切の就労が禁止されています。 |
| 【D】 特定技能1号 | ―(帯同不可) | × 不可 | 原則として、家族(配偶者)の帯同は認められていません。 |
3. 最も一般的なケース【C群】:「家族滞在」ビザと「週28時間の壁」
日本で働く外国人(就労ビザ)や留学生の配偶者として、最も多く発行される在留資格が「家族滞在 」です。
これは、上記C群(「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」「留学」など)の在留資格を持つ人の配偶者や子供が取得するビザです。
1. 「家族滞在」ビザの原則:「就労不可」
大原則として、「家族滞在」ビザは、その名の通り「家族として扶養(ふよう)を受けて日本に滞在する」ことを目的としたビザです。
したがって、このビザのままでは、収入を得る活動(仕事)をすることは一切できません。
コンビニで1時間アルバイトをすることすら違法となります。
2. 唯一の例外:「資格外活動許可」
「一切働けないのでは、配偶者の社会参加が妨げられる」という観点から、例外的な措置が用意されています。それが「資格外活動許可」です。
これは、本来の在留資格(=家族として滞在すること)の「外」で活動(=収入を得る仕事)することを、「許可」してもらう手続きです。権利ではなく、あくまで「許可」である点が重要です。
この許可を取得すると、おもに以下の条件の下で就労が認められます。
【資格外活動許可の条件】
・時間制限:週28時間以内
・業種制限:風俗営業など(アダルト系、接待を伴うバー、パチンコ店など)は禁止
3. 「週28時間」の具体的な意味
この「週28時間」は、非常に厳格に解釈されます。
- 1週間の定義: 任意の曜日から始まる7日間で計算されます。
- 掛け持ち(ダブルワーク): 2つの店でアルバイトをする場合、A店(週15時間)+ B店(週15時間)= 合計30時間となり、違反(オーバーワーク)です。
- 繁忙期: 「今週は忙しいから週40時間働き、来週は週10時間にして調整する」という考え方は認められません。どの7日間を切り取っても、必ず28時間以内でなければなりません。
この時間を1時間でも超えてしまうと、不法就労と見なされ、次回の在留資格更新(ご本人、配偶者ともに)が不許可になる、あるいは最悪の場合は退去強制の対象となる可能性があります。
4. 就労が自由な配偶者【B群】:身分・地位に基づく在留資格
C群とは対照的に、配偶者の活動(就労)に一切の制限がない在留資格が存在します。
それが、B群の「身分・地位に基づく在留資格」です。
1. 該当する在留資格
- 日本人の配偶者等: ご本人が、日本人と結婚した場合。
- 永住者の配偶者等: ご本人が、「永住者」と結婚した場合。
- 定住者: (例:日系3世の方や、一定の条件で離婚・死別した方など)
これらの在留資格は、「●●の仕事をするため」という活動ベースではなく、「日本人(または永住者)の配偶者である」という身分・地位そのものに基づいて与えられています。
2. 許可される活動:完全な自由
これらの在留資格を持つ配偶者は、日本人と全く同じように、就労活動に一切の制限がありません。
- 時間制限なし: フルタイム(週40時間以上)の正社員として働くことができます。
- 職種制限なし: C群では難しかった「単純労働」(例:工場のライン作業、建設現場、清掃など)でも、正社員として働くことができます。
- 業種制限なし: 風俗営業等(法律で禁止されている活動を除く)で働くことも法的には可能です。
- 起業(経営・管理): 自分で会社を設立し、「経営・管理」ビザを取得することなく、自由にビジネスを始めることができます。
3. C群との決定的な違い
C群「家族滞在」の配偶者が、もし日本でフルタイムのエンジニアの仕事を見つけたとします。その場合、その配偶者自身が「技術・人文知識・国際業務」ビザの要件(学歴・職歴など)を満たした上で、「家族滞在」から「技術・人文知識・国際業務」へ、在留資格の「変更許可申請」をしなければなりません。
しかし、B群の配偶者であれば、何の申請も必要なく、翌日からエンジニアとして(あるいはコンビニの店員として)フルタイムで働き始めることができます。
5. 特別な優遇措置【A群】:「高度専門職」とJ-Skipの配偶者
就労系ビザの中で最も優遇されているのがこのA群です。
日本政府が、世界中から優秀な人材(高度人材)を誘致するために設けた特別な優遇制度です。
「優秀な人材は、その配偶者も優秀なキャリアを持っていることが多い」という現実を踏まえ、C群の「週28時間の壁」を取り払う、強力なメリットが用意されています。
1. 該当する在留資格(ご本人)
- 高度専門職 : 学歴、職歴、年収、研究実績などをポイント換算し、合計70点以上で認定される在留資格。
- J-Skip(特別高度人材): ポイント計算をせずとも、極めて高い年収(例:研究者・技術者で2,000万円以上)と学歴・職歴を持つ人が対象。
2. 配偶者が取得する在留資格:「特定活動」
ご本人が「高度専門職」または「J-Skip」の認定を受けた場合、その配偶者は「家族滞在」ではなく、「特定活動」という在留資格が与えられます。
3. 許可される活動:B群とほぼ同等の「自由な就労」
この「特定活動」ビザを持つ配偶者は、フルタイムでの就労が許可されます。
- 時間制限なし: 正社員として週40時間以上働けます。
- 職種制限なし: 配偶者ご自身が、ご本人の専門分野(例:IT)と全く関係のない分野(例:翻訳、マーケティング、教師)でフルタイムの仕事を見つけることができます。
これは、夫婦共働きを望むカップルにとって、日本で生活する上で最大のメリットの一つとなります。
4. A群の最大の注意点:「連動」というリスク
A群の優遇措置は、B群(身分系)とは決定的に異なる注意点があります。
それは、配偶者の「特定活動(フルタイム就労可)」の地位が、すべて「ご本人の高度専門職/J-Skipの地位」に連動(リンク)している点です。
【具体例】
ご本人(夫)が「高度専門職」としてA社で働き、配偶者(妻)がその「特定活動」ビザでB社でフルタイム勤務しているとします。
もし、ご本人(夫)がA社を辞め、C社に転職したとします。
その転職先(C社)での待遇が、高度専門職のポイント基準(70点)を満たさなかった場合、ご本人(夫)は「高度専門職」の地位を失い、「技術・人文知識・国際業務」ビザなどに変更となります。
その瞬間、配偶者(妻)も「特定活動(フルタイム就労可)」の地位を失います。
妻は、B社でフルタイムで働き続けることができなくなり、ビザを「家族滞在(週28時間以内)」に変更するか、あるいは妻自身が「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザを(自力で)取得し直さなければなりません。
B群(身分系)の配偶者の地位が「婚姻関係」という(比較的安定した)基盤の上にあるのに対し、A群の配偶者の地位は「ご本人の仕事のステータス」という(変動しやすい)基盤の上にある、という違いがあります。
6. その他のケース【D群】と、配偶者がキャリアを築く戦略
1. D群:短期滞在、文化活動、特定技能
- 短期滞在 :ご本人が観光や短期商用(90日など)で滞在する場合、配偶者も「短期滞在」です。この在留資格は、一切の就労が認められていません。
- 文化活動 :日本文化の研究(茶道、華道など)や、無報酬でのインターンシップなどで使われるビザです。この配偶者は、C群と同じ「家族滞在」が取得できます。つまり、「資格外活動許可」で週28時間までのアルバイトが可能です。
- 特定技能1号:人手不足の特定分野(介護、建設、外食など)で働くための在留資格です。この「1号」については、原則として家族(配偶者・子)の帯同は認められていません。
2. 配偶者のためのキャリアプラン
もし、あなたがC群(例:技術・人文知識・国際業務)の在留資格で、配偶者が「家族滞在(週28時間)」しか認められない場合、どうすればよいでしょうか。
プラン1:配偶者自身が「就労ビザ」を取得する(ステータス変更)
配偶者ご自身が、日本の大学を卒業している、あるいは母国で大学を卒業し、専門的な職務経験がある場合、フルタイムの仕事を見つけることで「家族滞在」から「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザに変更できる可能性があります。
この場合、配偶者は「扶養される人」ではなく「独立した就労者」となり、ご本人(あなた)のビザとは関係なく、日本に在留し続けることができます。
プラン2:ご本人(あなた)が「高度専門職」を目指す
もし、ご本人の年収や学歴、職歴が「高度専門職」のポイント(70点)に近い場合、日本語能力試験(JLPT)N1やN2を取得したり、日本の大学院で修士号を取得したりして、ポイントを上乗せし、「高度専門職」の認定を目指す方法があります。
ご本人が「高度専門職」になれば、配偶者は自動的にA群の「特定活動」となり、フルタイム就労が可能になります。
7. おわりに
ご覧いただいた通り、ご本人の在留資格一つで、配偶者の日本での生活スタイル(キャリア、収入、社会との関わり方)は劇的に変わります。
- A群「高度人材」: ご本人の高い能力を基盤に、配偶者も自由にキャリアを追求する(ただし連動リスクあり)。
- B群「身分系」: 婚姻関係を基盤に、日本人と全く同じように、自由にキャリアを追求する。
- C群「家族滞在」: 扶養の範囲内、週28時間という制限の中で、生活の補助として働く。
ご自身のキャリアプランだけでなく、配偶者が日本でどのような生活を送りたいのか、どのようなキャリアを築きたいのかを事前によく話し合い、ご家族全体として最適な在留資格の戦略を立てることが、日本での生活を成功させるための第一歩となります。
もしご自身のケースがどのパターンに当てはまるか、あるいは「家族滞在」から「就労ビザ」への変更が可能かなど、具体的なご不安がある場合は、必ず出入国在留管理庁(入管)や、在留資格を専門とする行政書士にご相談ください。



