いま外食業界は大変な人手不足に直面しています。店長が何店舗も掛け持ちしていたり、アルバイトだけではシフトが埋められなくて店長自らがシフトに入らなければならかったりで、長時間労働を強いられているという話をよく耳にします。
ホールスタッフや調理担当として外国人アルバイトを採用することは、もはやあたりまえになってきていますが、店長やエリアマネージャーとしても外国人材を活用したいと考える企業様もあるかと思います。
そこでこの記事では、外食業界において、幹部候補として外国人材を活用したいときに使うことのできる「在留資格」(ビザ)について、解説いたしますので、ご参考にしていただければ幸いです。
目次
1. はじめに:外食産業が直面する「ビザの壁」
まず、出入国在留管理庁(以下、入管)の基本的な考え方として、就労ビザは「専門的な業務(ホワイトカラー)」と「単純労働(ブルーカラー)」に明確に分けて取り扱われます。
<専門的な業務>
大学での専攻や実務経験を活かす、企画、分析、管理、翻訳、開発などの業務。
<単純労働>
特別な専門知識を必要としない、現場での作業。外食業界でいえば、接客、調理補助、配膳、清掃などがこれに該当します。
一般的な就労ビザである「技術・人文知識・国際業務」は、専門的な業務にのみ許可され、単純労働に従事することは原則として認められていません。
外食産業における「店長」の仕事は、PL管理、スタッフの採用・教育、販売促進の企画といった「専門的な業務」と、人手不足の穴を埋めるためのレジ打ち、調理、接客といった「単純労働」が混在しています。
入管の審査では、「業務の大半が単純労働である」と判断された場合、たとえ「店長」という肩書であっても、「実態は現場のホールスタッフである」と見なされ、ビザは不許可となる可能性が高くなります。これが、外食業界が直面する最大の「ビザの壁」です。
では、この壁を合法的に乗り越え、外国人材に「店長」として活躍してもらうには、どのような選択肢があるのでしょうか。 結論から申し上げますと、「採用する人材の経歴」と「任せる業務の設計」によって、取るべき在留資格(ビザ)は大きく3つに分かれます。
1.経営・管理 (経営に深く関わる「真の管理者」として登用する)
2.技術・人文知識・国際業務 (「専門職」として本社の管理業務や特殊な業態に限定する)
3.特定活動46号 (日本の大学を卒業した「幹部候補生」として採用する)
以下、それぞれのビザについて、その要件、戦略、手続きを詳細に解説します。
2. 在留資格「経営・管理」
「経営・管理」ビザは、その名の通り、事業の経営者や管理者のための在留資格です。社長や役員、本部長クラスが取得する最上位の就労ビザの一つとご理解ください。
1.「経営・管理」で店長は可能か?
可能です。ただし、ここでいう「管理者」とは、名ばかりの店長(名ばかり管理職)ではなく、経営者と一体となって事業運営に携わる、極めて権限の強い管理者を指します。
入管が「経営・管理」の対象とする「管理者」の定義は以下のようなものです。
・事業の経営または管理に関する3年以上の実務経験があること(大学院で経営学を専攻した場合は不要)。
・日本人が従事する場合と同等額以上の報酬(役員レベル)を受けること。
・単なる現場の指揮監督ではなく、人事権(採用・解雇)、予算管理、経営判断など、事業運営の重要部分について実質的な権限を有していること。
2.外食業界での活用戦略
このビザは、新卒や未経験者、一般の店長候補には適しません。活用できるのは、以下のような限定的なケースです。
エリアマネージャー(上級職)として複数店舗を統括し、各店舗の店長の人事考課や、エリア全体のPL責任を持つ「エリアマネージャー」であれば、その職務権限の強さから「管理者」として認められる可能性があります。
海外の外食チェーンのマネージャーとして3年以上の経験を持つ人材を、日本法人の幹部として招聘するケースなどです。
新事業(フランチャイズ等)の責任者にして新しく立ち上げる特定のブランドや、特定のフランチャイズ事業の日本における最高責任者として登用する場合も、これに該当します。
3.申請のポイントと必要書類
「経営・管理」の申請は、会社の経営実態そのものが問われるため、提出書類は膨大かつ複雑になります。
① 事業計画書の策定
最も重要です。その人材が「管理者」として、どのように事業に貢献し、収益を上げていくのかを具体的に示します。単なる店舗運営計画ではなく、経営レベルでの事業計画が求められます。
② 職務権限の明確化
社内の組織図、職務権限規程、辞令などを作成し、その人材が「人事権」や「予算執行権」を確かに持っていることを客観的に証明する必要があります。
③ 報酬設定
他の日本人エリアマネージャーや役員と同等、あるいはそれ以上の報酬設定が必須です。現場スタッフと変わらない給与では、管理者とは認められません。
④ 執務スペースの確保
店舗の片隅(バックヤード)ではなく、管理業務に専念するための独立したデスクやスペースが確保されていることも審査の対象となります。
4.「経営・管理」ビザのメリットとデメリット
<メリット>
・在留資格の中で最も自由度が高く、現場作業を含む「経営活動」全般が認められる。
・会社の「役員」として登記することも可能。
・海外から直接、優秀なマネジメント層を招聘できる。
<デメリット>
・要求される権限・経験・報酬のハードルが非常に高い。
・「名ばかり管理職」と判断された場合、不許可となる可能性が高い。
・一般の「店長候補」にはほぼ適用できない。
【結論】
「経営・管理」ビザは、豊富な経験を持つ上級のエリアマネージャーや事業責任者を登用するための選択肢です。
経営・管理ビザについては、こちらの記事でも解説していますので、よろしければご参照ください。
→経営管理ビザ(https://kiyoshiyokokawa-office.com/keiei-kanri-visa/)
3. 在留資格「技術・人文知識・国際業務」
これは、日本で働く外国人の多くが取得する、最もスタンダードな「ホワイトカラー」ビザです。理系の「技術」、文系の「人文知識」、語学や文化を活かす「国際業務」の3分野から成ります。
1.なぜ「技術・人文知識・国際業務」ビザは外食店長に不向きなのか?
冒頭で述べた通り、このビザは「単純労働の禁止」が鉄則です。 入管の審査では、「店長」として申請があっても、その実態を厳しく見ます。
店舗のシフト表の提出を求められ、店長が恒常的にシフトの穴埋め(ホール業務や調理)に入っていることが判明すれば、不許可の可能性が高くなります。
求人票に「ホール・キッチン業務を含む」と書かれているだけで、不許可の可能性が高いです。
これが、多くの外食企業が「技術・人文知識・国際業務」ビザの申請に失敗する最大の理由です。
2.外食業界での活用戦略
では、まったく道はないのかというと、そうではありません。以下の2つの戦略に該当する場合、許可の可能性があります。
本社採用の総合職として雇用する
「本社勤務」として採用する 現場の店舗(店舗採用)ではなく、本社採用の「総合職」として雇用する形です。
業務例:エリアマネージャー(スーパーバイザー)として、各店舗を巡回し、売上分析、計数管理、店長指導、販売促進企画のみを行う。
ポイント:本人はあくまで本社所属であり、現場での接客や調理は「指導」や「臨時のサポート」の範囲を超えない、という業務設計が必要です。
「国際業務」の専門家として採用する
これは、「その外国人でなければならない理由」を明確にする戦略です。
業務例:インバウンド対応:訪日観光客向けのメニュー開発、外国語対応マニュアルの作成、接客指導、海外向けSNSの運用。
ポイント:この場合、本人の出身国や大学での専攻(例:観光学、言語学)と、担当業務(インバウンド対策など)との間に強い関連性が求められます。
3.申請のポイントと必要書類
採用理由書
なぜその外国人を採用するのか、その必要性を熱意をもって説明します。
「売上データの分析」「PL管理」「スタッフの労務管理」「マーケティング戦略の立案」などの専門性のある業務をおこなうために必要な人材であることを説明します。(例:「インバウンド需要の増加に伴い、〇〇語が堪能で、現地の食文化を理解する同氏の採用が不可欠である」)
本人の学歴・職歴の証明
大学の卒業証明書と成績証明書(専攻と業務の関連性を見るため)
(職歴がある場合)在職証明書(前職での専門的な業務経験を証明するため)
4.「技術・人文知識・国際業務」ビザのメリットとデメリット
<メリット>
・「経営・管理」ほどの高いハードル(実務経験3年など)はない。
・日本語能力に関する制約がない。
・国内外の大学卒業者など、対象となる人材の母集団が比較的大きい。
<デメリット>
・現場作業が原則としてできないため、人手不足の店舗運営と相性がよくない。
・申請が許可された後も、実態として現場作業をさせていた場合、次回のビザ更新が不許可になる可能性が高い。
・「名ばかりの管理職」として雇用すると、企業側が「不法就労助長罪」に問われるリスクすらあります。
【結論】
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、本社勤務のスーパーバイザーや、インバウンド対策等の専門家として登用する場合の選択肢です。現場の店長には不向きだと言えます。
「技術・人文知識・国際業務」ビザについては、こちらの記事でも解説していますので、よろしければご参照ください。
→人事担当者のための「技術・人文知識・国際業務」ビザ完全マニュアル(https://kiyoshiyokokawa-office.com/gijinkoku-manual/)
4. 在留資格「特定活動46号」(日本の大学卒業者)
「経営・管理」はハードルが高すぎる。「技術・人文知識・国際業務」は現場作業ができない。
この外食業界のジレンマを解決するために存在するのが、「特定活動46号」という在留資格です。これは、2019年に創設された比較的新しい制度で、一言で言えば「日本の大学等を卒業した優秀な留学生のための、柔軟な就労ビザ」なのです。
1.「特定活動46号」が“切り札”である理由
この在留資格の最大の特徴は、「技術・人文知識・国際業務」では禁止されていた「単純労働を含む、幅広い業務」への従事が、一定の条件下で認められる点にあります。
入管は、この制度の趣旨を「日本の大学で学んだ知識を活かし、日本人と同様のキャリアパスを歩むこと」を支援するものとしています。
日本企業では、新入社員がまず現場(店舗)でオペレーションを学び、経験を積んでから店長、エリアマネージャー、本社幹部へと昇進するのが一般的なキャリアパスです。 「特定活動46号」は、この「現場研修を含むキャリアパス」を、在留資格上、適法に行うことを可能にします。
つまり、貴社が採用した留学生に、「将来の幹部候補生として、まずは店舗で接客と調理を覚えてもらう」という、日本人新入社員と全く同じOJT(On-the-Job Training)を実施できるのです。
2.ただし、採用できる人材の要件が厳しい
このビザは、企業側のメリットが非常に大きい反面、採用できる外国人側の要件が厳しめに定められています。
採用対象者の必須要件
<学歴要件>
日本の大学(4年制)を卒業、または日本の大学院を修了していること。(日本の専修学校の専門課程を修了し、「専門士」または「高度専門士」の称号を持つ者も含まれます)
<日本語能力要件>
以下のいずれかを満たす、高い日本語能力。
・日本語能力試験(JLPT)で「N1」に合格している。
・BJTビジネス日本語能力テストで 480点以上を取得している。
・外国の大学で日本語を専攻して卒業している
「技術・人文知識・国際業務」では日本語能力は必須要件ではありませんでしたが、「特定活動46号」では、JLPT でN1レベルが必須となります。これは、日本人と同等に円滑なコミュニケーションを取り、現場業務と管理業務の両方を行うためです。
3.申請のポイントと戦略
このビザは、採用する人材が上記の要件を満たしていることが大前提です。その上で、企業側は以下の点を明確にする必要があります。
日本の大学での学びと業務の関連性
「技術・人文知識・国際業務」ほど厳格ではありませんが、「大学で学んだ広い知識や応用能力」と、「外食産業のマネジメント業務」とがどう結びつくかを説明する必要があります。 (例:経済学部で学んだマーケティング理論を、店舗の販売促進に活かす。社会学部で学んだ異文化コミュニケーション論を、多様なスタッフのマネジメントに活かす、など)
雇用理由書でキャリアパスの提示
申請において最も重要な書類です。
「なぜ現場作業が必要なのか」を合理的に説明します。(NG例:「人手が足りないからホール業務をさせる」) (OK例:「将来的にエリアマネージャーとして全店舗のオペレーションを指導する立場になるため、入社後2年間は店舗運営の基礎(接客・調理・在庫管理)を実務として習得してもらう必要がある」)
専門的業務の存在
あくまで「現場作業だけ」をさせるためのビザではありません。PL管理、スタッフ教育、シフト管理など、将来の管理業務に繋がる専門的な仕事も並行して行うことを採用理由書には明記します。
4.「特定活動46号」のメリットとデメリット
<メリット>
・合法的に「現場作業」と「管理業務」を両立できるビザである。
・日本人新卒社員と全く同じ研修・キャリアパスを提供できる。
・N1レベルの日本語能力が担保されているため、即戦力になる。
<デメリット>
・採用できる人材の母集団が比較的小さい(「日本の大学・専門学校卒」かつ「JLPT N1合格者」に限られる)。
・海外から直接人材を招聘することはできない(すでに日本にいる留学生が対象)。
・留学生側も、このビザの存在を知らない場合が多く、企業側からの積極的な情報提供が必要。
【結論】
「特定活動46号」は、日本の大学で学ぶ優秀な留学生を「新卒の幹部候補生」として採用し、現場から育てるための、外食業界にとって最強の選択肢だと言えます。
「特定活動46号」ビザについては、こちらの記事でも解説していますので、よろしければご参照ください。
→日本の大学を卒業なら特定活動46号ビザが使える(https://kiyoshiyokokawa-office.com/tokuteikatsudou-46/)
5. 「特定技能」ビザとの明確な違い
人手不足対策として「特定技能」ビザを思い浮かべる方も多いかと思います。しかし、これは「店長・マネージャー」登用とは全く別の制度です。
特定技能(外食業)
目的:外食業界の深刻な人手不足の解消(労働力の確保)。
業務:接客、調理、清掃などの現場作業(単純労働)。
キャリア:管理業務(店長業務)のみを行うことは認められていません。あくまで現場のオペレーターとしての在留資格です。
特定活動46号
目的:日本の大学を卒業した優秀な人材の確保。
業務:管理業務(専門業務)と、それに付随する現場作業。
キャリア:幹部候補生としてのキャリアパス。
「特定技能」は不足する“労働力”を補うビザ、「特定活動46号」は将来の“頭脳”を育てるビザ、と明確に区別して考える必要があります。
6.まとめ:ニーズに合わせた在留資格の選択が必要
外国人材を「店長・エリアマネージャー」として登用するためには、採用ターゲットに応じて、取得すべきビザの戦略を立てることが不可欠です。
①海外から即戦力のベテランマネージャーを招聘したい
→「経営・管理」ビザ取得の準備を進めてください。高い権限と報酬が必須です。
②本社採用のスーパーバイザーやインバウンド専門家が欲しい
→ 「技術・人文知識・国際業務」ビザの準備を進めてください。現場作業をさせない、徹底した業務設計が必須です。
③日本の大学に来ている優秀な留学生を新卒から幹部候補として育てたい
→「特定活動46号」ビザの活用をおすすめします。これが外食業界の王道です。近隣の大学の留学生キャリアセンターと連携し、「JLPT N1」を持つ学生の情報を集めることをおすすめします。
5. おわりに
外国人材を「店長」や「エリアマネージャー」として登用することは、単なる人手不足の解消ではありません。それは、多様な価値観を組織に取り入れ、インバウンド需要に対応し、企業の次の成長ステージに進むための「経営戦略」です。
しかし、その道は「ビザの壁」という法律の理解なくして進むことはできません。特に「技術・人文知識・国際業務」と「特定活動46号」の業務範囲の違いは、企業のコンプライアンスに関わる重大な問題です。
この記事が、貴社の人材戦略の一助となれば幸いですが、もし、貴社のケースでどのビザが最適か判断に迷う場合や、申請手続きに万全を期したい場合は、我々のような出入国管理業務を専門とする行政書士にご相談いただくことも、有効なリスク管理となります。
優秀な外国人幹部を迎え入れ、貴社の事業がますます発展されることを心よりお祈り申し上げます。



