相談者:IT企業に勤める30代の外国人男性
ITに関する技術や知識がもっと生かせる会社に転職したいと考えています。でもまだ転職先が決まっているわけではありません。今の会社を辞めてしまって、もし次の会社がなかなか決まらなかったら、在留資格が取り消しになったりするのではないか?と心配です。転職する前に知っておいたほうがいいことがあったら教えてください。
回答者:行政書士
会社を辞めたら日本にいられなくなるのでは?と心配になりますよね。結論からいうと、会社を辞めたからと言って在留資格がすぐに取り消されるようなことはありませんので、安心してください。ただし、会社を辞めたり転職するときは届出が必要になりますし、在留資格の変更が必要になることがありますので、くわしくご説明しますね。
ビザ(在留資格)を持って日本で働いている外国人の方にとって、「退職」と「転職」は人生の大きな転機であると同時に、法的な手続きの不安がつきまとうタイミングでもあります。
「会社を辞めたら、すぐに入管に行かないといけないの?」 「次の仕事が決まるまで、日本にいられるの?」 「ビザの種類を変える必要はあるの?」
こうした疑問や不安を抱えたまま退職日を迎えてしまうと、後になって入管法違反を問われたり、次のビザ更新が不利になったりするリスクがあります。
この記事では、会社を辞めてから転職するまでの間に「絶対にやらなければならない手続き」と、「転職活動期間中のビザの扱い」について、法律の仕組みに基づき、できるだけわかりやすく、かつ詳細に解説します。
目次
1. 退職してもビザはすぐには消えません
まず、一番多くの人が心配する点から解消しておきましょう。
「会社を辞めたら、すぐにビザ(在留資格)が無くなってしまうのでしょうか?」
答えは「No」です。 あなたの在留カードに書かれている「在留期限(満了日)」までは、原則としてビザは有効です。会社を辞めた瞬間にビザが無効になって、明日から不法滞在になる…ということはありません。
しかし、だからといって「何もしなくていい」わけではありません。入管法には、退職時や転職時に義務付けられた「届出」や、守らなければならない「ルール」が存在します。これらを怠ると、罰金や次回のビザ更新不許可の原因になります。
順を追って解説していきましょう。
2. 退職から14日以内にすべき「届出」
会社を辞めたとき、あるいは新しい会社に入ったとき、必ず行わなければならない手続きがあります。それが「所属機関等に関する届出(しょぞくきかんとうにかんするとどけで)」です。
1. どんな届出ですか?
これは、「私はA社を退職しました」「私はB社に入社しました」という事実を、あなた自身が入管に報告する手続きです。
よくある勘違いとして、「会社が入管に報告してくれるから、自分は何もしなくていい」と思っている方がいます。確かに、会社もハローワークなどを通じて国に報告する義務がありますが、それとは別に、外国人本人からも入管に届け出る義務があります。
2. いつまでにすればいいですか?
事由が生じた日(退職日や入社日)から14日以内です。 これを忘れて放置すると、20万円以下の罰金の対象となったり、次回のビザ更新期間が短縮されたりするペナルティを受ける可能性があります。
3. どうやって届け出ますか?
わざわざ混雑している入管の窓口に行く必要はありません。以下の3つの方法があります。
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方法①:インターネットで行う(おすすめ) 「出入国在留管理庁電子届出システム」を利用すれば、自宅のスマホやPCから24時間いつでも届出が可能です。利用者登録も簡単ですので、これが一番便利です。
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方法②:郵送で行う 入管のホームページから届出書をダウンロードして記入し、在留カードのコピーを同封して、東京出入国在留管理局の専門係へ郵送します。封筒の表面に赤字で「届出書在中」と書くのを忘れないでください。
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方法③:窓口で行う 最寄りの地方出入国在留管理局の窓口に直接提出することも、もちろん可能です。
4. まとめ
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前の会社を辞めたとき:「契約機関との契約の終了」の届出
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新しい会社に入ったとき:「契約機関との新たな契約の締結」の届出
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転職先が決まってから辞めた場合:「終了」と「締結」を合わせた届出(移籍)
この「14日以内の届出」は基本中の基本ですので、忘れないようにしてください。
3. ビザの「変更」は必要? 手続きの分岐点
次に、新しい会社で働くために、ビザの手続きが必要かどうかを確認しましょう。これは、「新しい仕事の内容」によって手続きが異なります。
パターンA:仕事の内容が変わらない場合
(例:IT企業のエンジニア → 別のIT企業のエンジニア) (例:貿易会社の通訳 → 英会話スクールの講師 ※どちらも「人文知識・国際業務」の範囲)
現在持っている在留資格(例:「技術・人文知識・国際業務」)の範囲内で新しい仕事ができる場合、「在留資格の変更許可申請」は必要ありません。 現在の在留カードのまま、新しい会社で働き始めることができます。
【推奨する手続き:就労資格証明書】 変更申請は不要ですが、「就労資格証明書(しゅうろうしかくしょうめいしょ)」の交付申請をしておくことをお勧めします。
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これは何?:入管が「あなたの新しい会社での仕事は、今のビザでやっていい内容ですよ」と公にお墨付きをくれる証明書です。
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なぜ必要?:もし、次のビザ更新の時に「実はこの仕事、あなたのビザでは認められない内容でした」と入管に判断されたら、更新不許可(=帰国)になってしまうからです。事前にこの証明書を取っておけば、次回の更新がスムーズかつ安心になります。また、転職先の会社に対しても「私は適法に働けます」という強力な証明になります。
パターンB:仕事の内容がガラッと変わる場合
(例:ITエンジニア → インド料理店のコック) (例:英会話講師 → 日本企業の経営者)
この場合は、現在の在留資格では働くことができません。 働き始める前に、必ず「在留資格変更許可申請(ざいりゅうしかくへんこうきょかしんせい)」を行い、許可をもらう必要があります。
【注意点】 許可が下りる前に新しい仕事を始めてしまうと、「不法就労(資格外活動)」となり、処罰の対象になります。内定をもらっても、新しいカードを受け取るまでは働いてはいけません。
パターンC:在留期限がもうすぐ切れる場合
転職のタイミングで、在留カードの期限(満了日)が迫っている場合は、通常の「在留期間更新許可申請」を行います。 このとき、申請書には「新しい会社」の内容を記入し、新しい会社の書類(登記簿謄本や決算書など)を添付して提出します。実質的には、新しい会社での審査が行われることになります。
4. 仕事が決まらない! 日本にいられなくなる?
ここが最も不安な点かと思います。 「退職してから3ヶ月以内に次の仕事を見つけないと、ビザが取り消される」という噂を聞いたことはありませんか?
1. 「3ヶ月ルール」の真実
入管法には確かに次のような規定があります。
「正当な理由がなく、在留資格に係る活動(仕事)を継続して3ヶ月以上行っていない場合、在留資格を取り消すことができる。(入管法第22条の4)」
これを見ると、「3ヶ月無職だと強制送還されるのでは?」と怖くなりますが、ポイントは「正当な理由がなく」という部分です。
2. 「求職活動(就職活動)」は正当な理由になる
入管の実務運用では、「ハローワークに通って仕事を探している」「企業に応募して面接を受けている」といった具体的な求職活動を行っている限り、それは「正当な理由」として認められます。
つまり、ただ家で寝て遊んでいるだけで3ヶ月が過ぎれば取り消しの対象になりえますが、一生懸命仕事を探しているのに決まらない場合は、直ちにビザが取り消されることはほとんどありません。
安心して、焦らず、しかし真剣に就職活動を続けてください。
3. 在留期限が来てしまったら?
仕事が決まらないまま、在留カードの期限(満了日)が来てしまった場合はどうすればよいでしょうか。 残念ながら、就職先が決まっていないと、就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)の更新はできません。
この場合は、帰国するか、あるいは「特定活動(とくていかつどう)」というビザへの変更を検討します。 これは、「就職活動を継続するためのビザ」です(※通常、大学を卒業した留学生向けのものですが、就労ビザからの切り替えも事情によっては認められるケースがあります)。
ただし、この変更は必ず認められるわけではありません。「今まで真面目に就職活動をしていたか」「生活費はあるか」などが厳しく審査されます。期限ギリギリになって慌てないよう、期限の1~2ヶ月前になっても決まらない場合は、早めに行政書士や入管に相談してください。
5. 忘れてはいけない「お金と保険」の手続き
ビザのことばかりに気を取られがちですが、退職時に忘れてはいけないのが、税金や保険の切り替えです。これを放置すると、将来のビザ更新や永住権申請で致命的なマイナスになります。
1. 健康保険の切り替え
会社を辞めると、会社の「健康保険(社会保険)」の資格を失います。次の会社に入るまでの間、以下のどちらかの手続きが必要です。
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国民健康保険(国保)に加入する 退職日の翌日から14日以内に、住んでいる市区町村の役所で手続きをします。保険料は自分で支払います。
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任意継続(にんいけいぞく)する 前の会社の保険にそのまま入り続ける制度です(最長2年)。保険料は全額自己負担になりますが、国保より安い場合もあります。
【注意】「病気にならないからいいや」と無保険状態でいることは違法です。ビザ更新時に保険証の提示を求められることもありますので、必ず手続きをしてください。
2. 年金の切り替え
会社員は「厚生年金」に入っていますが、辞めると「国民年金」への切り替えが必要です。これも市区町村の役所で行います。 もし経済的に支払いが苦しい場合は、「免除・猶予申請」を行うことができます。未納のまま放置するのが一番よくありません(永住権が取れなくなります)。必ず役所に相談して、正式に免除の手続きをしてください。
3. 住民税の支払い
住民税は、前年の所得に対して後払いで請求が来ます。 会社員時代は給料から天引き(特別徴収)されていましたが、辞めると残りの分を自分で払う(普通徴収)ことになります。 役所から納付書(請求書)が届きますので、コンビニなどで忘れずに支払ってください。これも未納があるとビザ更新に大きく影響します。
6. 失業中の生活を支える制度
次の仕事が決まるまでの間、収入がないのは不安です。日本の公的制度を活用しましょう。
1. 失業保険(雇用保険の基本手当)
外国人であっても、雇用保険に一定期間(原則として退職前の2年間に12ヶ月以上)加入していれば、「失業給付」を受け取ることができます。
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どこで?:住んでいる地域を管轄するハローワーク(公共職業安定所)
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条件は?:「働きたいという意思と能力があり、求職活動を行っていること」
会社から「離職票(りしょくひょう)」をもらったら、すぐにハローワークに行って手続きをしてください。 なお、失業保険をもらうことは、ビザの更新や永住権の審査においてマイナスにはなりません(正当な権利だからです)。生活費が尽きて税金を滞納する方がよほど問題です。
2. アルバイトはできる?
ここが非常に重要な注意点です。 就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)を持っている人は、単純労働のアルバイト(コンビニ、工場、飲食店ホールなど)をすることはできません。 「生活費がないから」といって無断でアルバイトをすると、「資格外活動違反」となり、次回のビザ更新ができなくなる恐れがあります。
どうしてもアルバイトが必要な場合は、入管で「資格外活動許可」を申請する必要がありますが、就労ビザ保持者の単純労働アルバイトは、簡単には許可されません。「会社を辞めても、次の仕事が決まるまではアルバイトはできない」と考えておいた方が安全です。
7. まとめ
長くなりましたが、転職時のポイントをまとめます。
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届出:退職時と入社時に、14日以内に「所属機関等に関する届出」を入管に提出する。
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ビザの種類:職種が変わらないなら変更不要。ただし「就労資格証明書」を取っておくと安心。
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無職期間:3ヶ月過ぎても、真剣に就活していればすぐにビザは取り消されない。
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公的手続き:国民健康保険、国民年金への切り替えを忘れずに。住民税も自分で払う。
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失業保険:条件を満たせば受給できる。ハローワークへ行こう。
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禁止事項:許可なく単純労働のアルバイトをしてはいけない。
転職は、より良いキャリアを築くためのポジティブなステップです。 入管法の手続きは少し面倒に感じるかもしれませんが、これらをしっかり守ることは、日本からの信頼を得ることにつながります。
もし、「自分の新しい仕事がビザの範囲内かどうかわからない」「就活が長引いてビザの期限が切れそうだ」といった個別の悩みがある場合は、早めにビザの手続きを専門とする当事務所にご相談ください。
相談は無料で承ります。相談してみた結果、「自分で手続きをやってみます」とか「他の事務所に依頼します」となっても大丈夫です。あとから電話やメールでしつこくご連絡することもありませんので、ご安心ください。
転職をお考えのあなたが、安心して新しいスタートを切ることができるよう、心から応援しています。



