外食業の人手不足を救う「特定技能(外食業)」ビザを解説

「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」「シフトが埋まらず、店長が休みなしで働いている」 こうした悲鳴に近い声が、今、日本中の飲食店から聞こえてきます。もはや人手不足は一過性のものではなく、構造的な経営課題となっています。

この危機的状況を打破する切り札として注目されているのが、在留資格「特定技能(外食業)」です。 しかし、「興味はあるが、制度が複雑でよくわからない」「コストがどれくらいかかるのか不安だ」「手続きが面倒そう」と二の足を踏んでいる経営者様も多いのではないでしょうか。

この記事では、多忙な外食業の経営者様・採用担当者様に向けて、特定技能外国人を採用するために必要な知識、費用、手続きの流れ、そして採用後のマネジメントに至るまで、現場目線で解説いたします。 この記事を読むことで、特定技能制度の全体像を掴んでいただくことができれば幸いです。

 

1. 「特定技能(外食業)」とは何か? ~アルバイト留学生との決定的違い~

まず、根本的な部分から整理しましょう。いま、飲食店の現場を支えている外国人の多くは、「留学生」です。しかし、特定技能はこれとは全く異なる性質を持つ、「戦力としてのプロフェッショナル」のためのビザです。

1. 「週28時間」の縛りがない

留学生(資格外活動許可)には、「週28時間以内」という厳格な就労制限があります。繁忙期にもっと働いてほしくても、法律がそれを許しませんでした。 対して、特定技能ビザには就労時間の制限がありません。日本人社員と同様に、フルタイム(週40時間以上)で働くことができ、残業も(36協定の範囲内で)可能です。これは、安定したシフト管理を行う上で劇的なメリットとなります。

2. 業務範囲の広さ(ホールもキッチンもOK)

「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザでは、単純労働とみなされるホールでの接客や配膳は原則禁止です。また、「技能(調理師)」ビザは、実務経験10年以上のプロ調理師に限られ、ホール業務はできません。 しかし、特定技能(外食業)は、「飲食物調理、接客、店舗管理」の全般を行うことができます。つまり、日本人の正社員やアルバイトと同じように、ホールとキッチンを行き来したり、開店準備から閉店作業まで任せたりすることが法的に認められているのです。

3. 即戦力性の担保

外国人が特定技能ビザを取得するには、以下の2つの試験に合格しているか、技能実習2号を良好に修了している必要があります。

  • 外食業特定技能1号技能測定試験(衛生管理や調理、接客の知識)

  • 日本語能力試験(N4以上、ある程度の日常会話レベル) つまり、採用した時点で「最低限の日本語力」と「飲食業の基礎知識」を持っていることが保証されています。「ゼロから教える」コストが省ける点も大きな魅力です。

 

2. 最も気になる「費用面」

特定技能外国人の採用には、日本人採用とは異なるコスト構造があります。「思ったより高かった」とならないよう、費用の内訳を見ていきましょう。

費用は大きく分けて、「①採用時のイニシャルコスト」と「②雇用継続のランニングコスト」の2つがあります。

① 採用時のイニシャルコスト(概算:30万~80万円程度/1名)

  1. 紹介手数料(人材紹介会社へ)

    • 特定技能外国人を自社で探すのは困難なため、専門の人材紹介会社を利用するのが一般的です。

    • 相場は、想定年収の20%~30%、あるいは定額で40万~60万円程度が相場です。日本人の中途採用と同等か、やや高い水準です。

  2. ビザ申請費用(行政書士へ)

    • 入管への申請書類は非常に複雑です。行政書士に依頼する場合、10万~20万円程度かかります。

  3. 渡航費(海外から呼び寄せる場合)

    • 航空券代や、入国後の初期宿泊費などがかかります。国内在住の留学生を採用する場合は不要です。

② 雇用継続のランニングコスト(概算:月額2万~3万円 + 給与)

  1. 支援委託費(登録支援機関へ)

    • ここが特定技能特有のコストです。企業は特定技能外国人に対し、生活面や公的手続きの「支援」を行う義務があります。

    • 自社でこの支援を行うノウハウがない場合、「登録支援機関」という外部機関に委託することになります。その委託費が、外国人1名につき月額2万円~3万円程度かかります。これが毎月発生する固定費となることを忘れてはいけません。

  2. 給与・社会保険料

    • 法律により、「日本人と同等額以上」の報酬を支払う必要があります。「外国人だから安く雇える」という考えは捨ててください。

    • 当然、社会保険(健康保険・厚生年金)、雇用保険、労災保険への加入も必須です。

【コスト面の結論】 決して「安い労働力」ではありません。しかし、採用難で媒体費を垂れ流し続けるコストや、人手不足による機会損失(売上減)、既存スタッフの疲弊による離職リスクを考えれば、「確実に定着してくれるフルタイム戦力」への投資として、十分に見合う金額と言えるでしょう。

 

3. 採用から入社までの流れと手続き

「明日から来てほしい」と思っても、特定技能ビザの手続きには時間がかかります。採用決定から入社まで、国内在住者で2~3ヶ月、海外から呼び寄せる場合は4~6ヶ月見ておく必要があります。

ステップ1:人材の募集・面接

人材紹介会社や求人媒体を通じて候補者を探します。 面接では、スキルだけでなく、「なぜ日本で働きたいか」「将来のキャリアプラン」などを確認し、自社のカルチャーに合うかを見極めます。 ※この時点で、候補者が「試験合格者」なのか「技能実習修了者」なのかを確認し、合格証書や修了証書のコピーをとっておきましょう。

ステップ2:雇用契約の締結

内定を出したら、雇用契約書を結びます。 ここで重要なのが、「重要事項説明書」や「雇入条件書」を、相手が理解できる言語(母国語)で作成し、説明することです。これは法律上の義務です。翻訳の手間がかかりますが、登録支援機関や行政書士がサポートしてくれる場合が多いです。

ステップ3:支援計画の作成(※最重要)

特定技能制度の肝となるのが「1号特定技能外国人支援計画」の作成です。 企業は、彼らが日本で不自由なく暮らせるよう、以下の10項目の支援を行わなければなりません。

  1. 事前ガイダンス(入国前・雇用前の説明)

  2. 出入国する際の送迎(空港への送迎)

  3. 住居確保・生活に必要な契約支援(社宅の用意、銀行口座開設、スマホ契約など)

  4. 生活オリエンテーション(日本のルール、ごみの出し方、交通機関の使い方など)

  5. 公的手続きへの同行(住民登録、税金、社会保険など)

  6. 日本語学習の機会の提供(教室の案内や教材費補助など)

  7. 相談・苦情への対応(母国語での相談窓口設置)

  8. 日本人との交流促進(地域行事への参加など)

  9. 転職支援(会社都合で解雇する場合)

  10. 定期的な面談・行政への報告(3ヶ月に1回)

これらを自社ですべて行うのは非常に大変です。そのため、多くの企業が「登録支援機関」にこれらを丸ごと委託します(前述の月額2~3万円のコストはここの対価です)。

ステップ4:在留資格(ビザ)の申請

地方出入国在留管理局へ申請を行います。

  • 在留資格認定証明書交付申請(海外から呼ぶ場合)

  • 在留資格変更許可申請(国内の留学生などを採用する場合)

審査期間は通常1~2ヶ月ですが、書類不備があるとさらに長引きます。

ステップ5:入社・就労開始

ビザの許可が下りたら、晴れて入社です。 入社後も、登録支援機関を通じて3ヶ月に1回の定期面談を行い、問題が認められた場合には、入管へ定期面談報告書を提出する義務があります。

 

4. 経営者が知っておくべき注意点

手続き通りに進めても、思わぬ落とし穴にはまることがあります。外食業界特有の注意点を挙げます。

1. 「外食業特定技能1号技能測定試験」の合格確認

当然ですが、試験に受かっていなければビザは下りません。特に「技能実習生(食品製造など)」から「外食業」へ移行する場合、職種が異なるため、試験免除にならず、改めて外食の試験に合格しなければならないケースがあります。事前の確認が必須です。

2. 「食品産業特定技能協議会」への加入義務

 外食分野で特定技能外国人を受け入れる企業は、入管に申請する前に、農林水産省が管轄する「食品産業特定技能協議会」に入会しておかなければなりません。 これに入会していないと、特定技能外国人の在留資格認定証明書交付申請ができません。協議会加入の審査には、1~2か月かかりますので、この期間をあらかじめ考慮のうえ計画的に準備を進める必要があります。

3. 「風俗営業」との兼ね合い

特定技能外国人は、風俗営業法上の許可が必要な店舗(キャバクラ、スナック、ガールズバー等)では雇用できません。 一般的な居酒屋であれば問題ありませんが、接待を伴う飲食店や、深夜酒類提供飲食店営業の届出をしているバーなど、業態によってはグレーゾーンになる場合があります。自社の店舗がこれに抵触しないか、必ず行政書士等に確認してください。

4. 派遣はNG、直接雇用のみ

特定技能(外食)は、「直接雇用」に限られます。派遣会社から派遣してもらう形態は認められていません(農業や漁業など一部の分野を除く)。必ず自社の社員(または契約社員)として雇用契約を結ぶ必要があります。

 

5. 特定技能外国人を「定着」させるマネジメント術

高いコストをかけて採用しても、すぐに辞められてしまっては意味がありません。特定技能外国人は、日本人同様に「転職の自由」を持っています。条件の良い店があれば、彼らは移ってしまいます。 定着させるためのポイントは、「孤立させないこと」と「キャリアパスを示すこと」です。

1. 文化・宗教への配慮

「豚肉に触れられない」「お酒を扱えない」「お祈りの時間が必要」など、宗教上の制約があるスタッフもいます。 これらを「面倒だ」と排除するのではなく、チーム全体で理解し、業務分担を工夫する姿勢が、彼らの帰属意識(エンゲージメント)を高めます。「この店は自分を尊重してくれる」と感じれば、彼らは長く働いてくれます。

2. 日本語教育とコミュニケーション

「N4(日常会話レベル)」といっても、早口の日本語や独特の居酒屋用語(「とり皿」「お冷」など)は通じないことがあります。 マニュアルに写真を多用したり、翻訳アプリを活用したりする工夫が必要です。また、日本人スタッフに対しても「やさしい日本語」で話しかけるよう指導することが、チームワーク向上の鍵です。

3. 特定技能「2号」という希望

特定技能(外食業)1号は1年ごとに更新し、通算で「最長5年」の在留しか認められませんが、熟練した技能を持つ「2号」への道もあります。 2号になれば、在留期間の更新制限がなくなり(事実上の永住への道)、家族(配偶者と子)の帯同も認められます。 「頑張れば、ずっと日本で働けるし、家族も呼べるよ」というキャリアパスを示し、資格取得を支援することで、彼らのモチベーションは劇的に向上します。

 

6. 登録支援機関の選び方 ~「安かろう悪かろう」に注意~

前述の通り、多くの企業が支援業務を「登録支援機関」に委託しますが、この選び方が非常に重要です。

  • 対応言語の確認:採用する外国人の母国語に完全対応しているか。

  • 緊急時の対応:深夜や休日のトラブル(病気、事故、喧嘩など)に対応してくれるか。

  • 実績:外食業界での支援実績があるか。

月額の委託費だけで選ぶと、いざトラブルが起きた時に「電話が繋がらない」「通訳が確保できない」といった事態になり、結局現場の店長が対応に追われることになります。 人材紹介会社が登録支援機関を兼ねているケースも多いので、採用とセットで相談するのがスムーズですが、サポート体制については契約前によく確認することをお勧めします。

 

7. まとめ

特定技能制度は、決して「安価で使い勝手の良い労働力の調整弁」ではありません。 日本人と同じ給与を払い、日本人以上の支援コストをかけ、一人のプロフェッショナルとして迎え入れる制度です。

しかし、そのハードルを越えて採用した特定技能外国人は、ハングリー精神に溢れ、学ぶ意欲が高く、店に新しい風を吹き込んでくれる存在になります。彼らの明るさや真面目さに救われたという現場の声が多く聞かれます。

外食業界の人手不足は、待っていても解消しません。 経営者の皆様におかれましては、ぜひこの特定技能制度を「コスト」としてではなく、企業の未来を拓く「人材投資」と捉え、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

まずは、お近くの信頼できる行政書士や、特定技能に強い人材紹介会社へ相談することから始めてみてください。その一歩が、貴社の店舗運営を劇的に変えるきっかけになるはずです。

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