目次
1. はじめに ― 特定技能1号は転職できるのか?
「今の職場を辞めて、別の飲食店に移りたい」
特定技能1号(外食業)で日本の飲食店に勤める外国人の方や、その採用を検討している企業の担当者から、こうした相談を受けることがあります。そのたびに最初に確認しておきたいのが、「そもそも特定技能1号で転職はできるのか」という点です。
結論からお伝えすると、特定技能1号(外食業)は、同じ外食業分野の企業への転職が認められています。
技能実習制度では、原則として転職が認められておらず、受入れ機関(会社)に紐づいた在留資格でした。これが技能実習制度の大きな問題点のひとつとして長年指摘されてきました。これに対して特定技能制度は、労働者としての権利をより重視した設計になっており、同一分野内であれば本人の意思による転職が認められています。
ただし、「転職できる」といっても、手続きなしに自由に職場を変えられるわけではありません。 在留資格は現在の所属機関(雇用している会社)と紐づいており、転職に際しては所定の手続きを適切に行わなければ、不法就労という深刻な事態を招くリスクがあります。
また、2026年4月13日からは特定技能(外食業)の新規受入れが原則停止されている状況ですが、それより前からすでに外食業分野で特定技能1号として在留している方が、同じ外食業分野の会社へ転職する場合は、引き続き変更手続きが認められています。 この点は、採用を検討している企業にとっても重要なポイントです。
この記事では、特定技能1号(外食業)で働く外国人が別の飲食店に転職する際に必要な手続きについて、外国人雇用を専門とする行政書士の立場から、詳しく解説していきます。転職を考えている外国人の方はもちろん、特定技能人材の採用を検討している飲食店の経営者・人事担当者の方にも、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
2. 転職前に本人が確認すべきこと
転職に向けて動き出す前に、まず現在の状況をしっかりと把握しておくことが重要です。在留資格に関わる手続きは、順序を誤ったり、確認を怠ったりすると、思わぬトラブルに発展することがあります。転職前に確認すべき事項を、以下のとおり整理します。
在留カードの在留期限を確認する
まず最初に確認すべきは、在留カードに記載されている在留期限です。
特定技能1号の在留期間は、通常1年を超えない範囲で許可されており、更新を繰り返しながら在留することになります。在留期限が迫っている状態で転職手続きを進めると、更新申請と転職に伴う手続きが重なり、非常に煩雑になります。転職を考え始めた段階で、まず在留期限を確認し、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
通算在留期間の残りを把握する
特定技能1号には、通算5年という在留期間の上限があります。これは、同じ会社に勤め続けた場合でも、転職した場合でも、外食業分野での特定技能1号としての在留期間が合算されます。
たとえば、すでに3年間特定技能1号(外食業)として在留している方であれば、残りの在留可能期間は最長2年となります。転職先での雇用計画を立てる際に、受入れ企業側もこの点を必ず確認しておく必要があります。残りの在留期間が短い場合は、後述する特定技能2号への移行も視野に入れた対応が求められます。
現在の雇用契約の内容を確認する
転職にあたっては、現在の雇用契約書の内容も改めて確認しておきましょう。確認すべき主なポイントは以下のとおりです。
- 退職予告期間:民法上は2週間前の申し出で退職できますが、雇用契約書や就業規則に別途定めがある場合はそれに従う必要があります
- 違約金・損害賠償条項:特定技能の雇用契約において、退職に際して違約金を課す条項は法律上無効ですが、念のため確認しておくと安心です
- 社宅・寮の利用状況:会社が提供する住居に入居している場合、退職と同時に退去が必要になることがあります。転職先での住居を事前に確保しておくことが重要です
登録支援機関との関係を確認する
特定技能1号の外国人を雇用する企業は、支援計画に基づいてさまざまな支援を行う義務があります。この支援業務を登録支援機関に委託しているケースが多くあります。
転職する場合、現在の登録支援機関との契約は原則として終了し、転職先が新たに支援体制を整える必要があります。現在どの登録支援機関が支援を担当しているかを確認し、転職後の支援体制についても転職先企業と事前に話し合っておくとスムーズです。
「転職活動中」の在留資格上の取り扱い
現在の職場を退職してから転職先で働き始めるまでの間、在留資格はどうなるのかという疑問を持つ方も多いと思います。
特定技能1号の在留資格は、退職しても即座に失効するわけではありません。 在留期限が残っている限り、在留資格自体は有効です。ただし、特定技能1号は「外食業分野で就労すること」を前提とした在留資格であるため、退職後に長期間にわたって就労しない状態が続くことは、在留資格の趣旨に反する可能性があります。転職先をあらかじめ決めてから退職するか、できる限り転職活動の期間を短くすることが望ましいといえます。
3. 転職先(受入れ企業)が満たすべき要件
転職を希望する外国人本人だけでなく、受入れ企業側にも一定の要件が求められます。「採用したい人材がいる」という気持ちだけでは不十分で、企業としての体制が整っていなければ、特定技能外国人を受け入れることはできません。
特定技能所属機関としての基本要件
特定技能外国人を受け入れる企業は、「特定技能所属機関」としての要件を満たしている必要があります。主な要件は以下のとおりです。
① 外食業分野の事業を営んでいること
受入れ企業は、飲食料品の調理・接客・店舗管理等を行う外食業を営んでいることが前提です。具体的には、食堂・レストラン・居酒屋・カフェ・ファストフード店など、外食業に該当する業態であることが必要です。
② 食品産業特定技能協議会に加入すること
外食分野で特定技能外国人を受け入れる企業は、入管に申請する前に、農林水産省が管轄する「食品産業特定技能協議会」に入会しておかなければなりません。 これに入会していないと、特定技能外国人の在留資格認定証明書交付申請ができません。協議会加入の審査には、2~3か月かかりますので、この期間をあらかじめ考慮のうえ計画的に準備を進める必要があります。
③ 労働関係法令・社会保険関係法令を遵守していること
労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法などの労働関係法令、および健康保険・厚生年金・雇用保険などの社会保険関係法令を遵守していることが求められます。過去に重大な法令違反がある企業は、特定技能所属機関として認められない場合があります。
④ 欠格事由に該当しないこと
入管法に定める欠格事由に該当しないことが必要です。たとえば、過去5年以内に出入国・労働関係法令に関する不正行為があった場合や、暴力団関係者である場合などは、受入れ機関として認められません。
⑤ 報酬が日本人と同等以上であること
特定技能外国人に支払う報酬は、同等の業務に従事する日本人労働者と同等以上でなければなりません。これは差別的な待遇を防ぐための重要な要件であり、雇用契約書にその旨が明記されている必要があります。
支援計画の策定・実施体制を整えること
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、1号特定技能外国人支援計画を策定し、適切に実施する義務があります。支援計画には、事前ガイダンス・出入国時の送迎・住居確保の支援・生活オリエンテーション・日本語学習の機会提供・相談対応など、さまざまな支援項目が含まれます。
これらの支援を自社で行う体制が整っていない場合は、登録支援機関に委託することが義務付けられています。 転職受入れに先立ち、自社対応か委託かを決定し、委託する場合は登録支援機関との契約を締結しておく必要があります。
外食業分野特有の要件
外食業分野には、一般的な特定技能所属機関の要件に加えて、分野特有の要件があります。
① 食品衛生法上の営業許可を受けていること
外食業として営業するためには、食品衛生法に基づく営業許可を受けていることが必要です。無許可営業の店舗では、特定技能外国人を受け入れることができません。
② 農林水産省への各種届出を行っていること
外食業分野の特定技能所属機関は、農林水産省が定める「外食業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」を提出するとともに、定期的な受入れ状況の報告が求められます。
初めて特定技能外国人を受け入れる企業が注意すべき点
これまで特定技能外国人を雇用したことがない企業が転職者を初めて受け入れる場合、上記の要件に加えて、制度全体の理解と社内体制の整備が不可欠です。
特に注意が必要なのは、支援計画の策定と登録支援機関の選定です。転職者の入社日が決まってから慌てて準備を始めると、手続きが間に合わない場合があります。採用の意思が固まった段階で、早めに準備を進めることを強くお勧めします。
また、特定技能外国人を受け入れる際には、入管への各種申請・届出が必要になります。初めての手続きで不安がある場合は、入管申請を専門とする行政書士に相談することで、要件の確認から申請書類の準備まで、一括してサポートを受けることができます。
4. 必要な手続きの全体像 ― 何を・いつ・誰が行うか
転職に伴う手続きは、外国人本人・転職元企業・転職先企業の三者がそれぞれ関わります。「誰が」「何を」「いつまでに」行う必要があるかを正確に把握しておくことが、スムーズな転職の第一歩です。
特定技能における転職の大原則
特定技能の転職にあたっては、在留資格の変更手続きを行う必要があります。すでに特定技能だから在留資格はそのままでよい、というわけではなく、企業ごとに在留資格申請が必要になります。
これは、特定技能の在留資格が在留カードと一緒に交付される「指定書」によって、所属機関(企業名)・分野・業務区分が具体的に特定されているためです。同じ外食業分野の企業へ転職する場合であっても、指定書の内容を新しい転職先に合わせて書き換える必要があり、そのためには正式な在留資格変更許可申請が必要になります。
また、新しく特定技能外国人を受け入れる企業側も、本人の在留資格変更許可が下りるまでは雇用することができないため、注意が必要です。
つまり、「転職先が決まったからすぐに働ける」というわけではなく、在留資格変更許可が下りるまでの間は転職先での就労ができないという点を、企業・本人の双方が十分に理解しておく必要があります。
手続きの流れ
転職に伴う手続きは、「退職前後」「転職先決定後」「許可・就労開始後」の三つの段階に分けて整理します。
①退職が決まったら
- 転職元企業による入管への届出:特定技能外国人が退職した場合、転職元企業は退職日から14日以内に、出入国在留管理庁に「受入れ困難となった旨の届出」および「特定技能雇用契約の終了に関する届出」を行う必要があります。
- 本人による入管への届出:外国人本人も、退職した場合は14日以内に「活動機関に関する届出」を行う義務があります。
②転職先が決まったら
転職先が決まり雇用契約を締結した段階で、最も重要な手続きが発生します。
- 在留資格変更許可申請:転職先企業との雇用契約に基づき、新しい所属機関・業務内容に対応した在留資格変更許可申請を入管に行います。この申請が許可されるまでは転職先での就労はできません。転職先企業が行政書士に依頼するなどの手配をするケースも多いです。
- 転職先企業による届出・書類準備:転職先企業は、在留資格変更許可申請に必要な書類を準備・提供するとともに、新たな支援計画を策定する必要があります。
③許可・就労開始後
- 転職先企業による入管への届出:在留資格変更が許可され就労を開始した後、転職先企業は14日以内に「特定技能雇用契約の締結に関する届出」および「受入れ状況に関する届出」を行います。
- 本人による入管への届出:外国人本人も、就労開始から14日以内に「活動機関に関する届出」にて新しい勤務先の情報を届け出ます。
- 定期届出:転職先企業は、年に一回、入管へ受入れ状況の定期届出を行う義務があります。
「許可が下りるまで働けない」ことへの備え
特定技能外国人が次の企業に転職・就労が可能な在留資格が許可されるまでは、数日~数か月間にわたり給与の支払いができない可能性があることを伝えておきましょう。また、寮や社宅なども転職前に使用させてもらえるのか、できないなら自分で借りる必要があることも外国人に伝えておく必要があります。
在留資格変更許可申請の審査期間は一般的に1〜3ヶ月程度かかることがあります。この間の生活費・住居の確保について、転職先企業と本人があらかじめ話し合い、対応策を講じておくことが重要です。
5. おわりに
2026年4月に特定技能(外食業)の新規受入れが停止されたことで、外食業界における外国人材の確保はこれまで以上に難しくなっています。そのような状況だからこそ、すでに日本で働いている特定技能外国人一人ひとりを大切にし、転職という選択肢も含めて、その方が安心して日本で働き続けられる環境を整えることが、企業にとっても社会にとっても重要な課題となっています。
転職手続きは、決して難しいことではありません。しかし、正確な知識と適切な準備なしに進めると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。この記事が、転職を考えている外国人の方にとっても、外国人材の採用を検討している企業の方にとっても、安心して手続きを進めるための一助となれば幸いです。
手続きに関してご不明な点や、個別の状況についてのご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
★外食業の特定技能受入れ停止措置については、こちらの記事もあわせてご参照ください。
【2026年4月】外食業の特定技能が受入れ停止。残された選択肢とは?



